恋する少女

すばるは高校生になった。

シュリや泪とも相変わらず仲良しだし、

タクヤとも親子でうまくやっていた。

ただ少し、変わってきたことがあるようだ。

まだ本人に自覚は無いようだが。

今日は親友のシュリと一緒にタクヤと泪のユニット「AZEMICHI」のコンサートに来ている。

初めてタクヤのコンサートに来てからら、もう何回も観に来てるけど、

何回観ても、パパはいつもかっこいいな、とすばるは思った。顔が自然とニコニコしてしまう。

その顔をシュリは見ていた。

側から見たらその表情は…

「お前、恋する女みたいだな」

「え?」

テーブルに頬杖をついて、シュリはボソリと言った。

正直言って、すばるがタクヤに父ではなく男として惹かれていること、そばで見ていれば一目瞭然だった。

本人は全く無自覚のようだったが。

恋する少女の顔はなんとも可愛いものだ。シュリはその顔を見て少なからず胸がときめいていたけど、

その子が想う相手が自分ではなくタクヤだということが、切ない。

「恋?なにが?」

これだ。

本当にイライラしてくる。

「あのさ…今鏡があったらお前の顔、見せてやりたいよ。」

そう言ってシュリはため息をついた。

タクヤが好きなんだろ。

そう言ってしまえばいいのだけど、
そう言ってしまったら、もう取り返しのつかないことになりそうで…

あえて教えることもないかと思った。
それより自分に気持ちが向くように仕向ければいいのだ。

その気持ちを、タクヤではなく俺に向けてるものだと、勘違いさせられたら。

「顔?何かついてる?」

首を傾げて顔を近づけてこられたから、シュリは顔が赤くなるのを見られまいと急いでそっぽを向いた。

「何〜?変なシュリ。なんか怒ってる?」

「怒ってないよ。急にガン見するからびっくりしただけだよ。」

「ふぅん。あ、ねぇパパがね、この前新曲作ってたの。きっと今日やるよ。私メロディしか聴いてないけど、すごく綺麗な曲だったんだ。楽しみ」

と言ってすばるはまた恋する少女の顔に戻っていった。

「ふぅん、そう…」

かわいいな。

この顔、俺に向けてくれたらいいのに。

でも実際自分の方に向ける方法なんて全然思いつかない。

不器用なシュリには尚更それが至難の技に思えた。

せめて今、一番近くでこの顔を見ていよう。
たとえ想い人が自分じゃなくても。

シュリはそう思い直して、コンサートに夢中になるすばるの横顔をそっと見つめた。



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