ある日、タクヤは話があるとすばるをリビングに呼んだ。
「なぁにパパ?改まって。」
すばるはキョトンとしてソファに座った。
タクヤがいつもより険しい表情なので、すばるは何か胸騒ぎがした。
「すばる。よく聴いて。お前は来月からシュリのいるシェアハウスに行くんだ。大学生活はそこで送りなさい」
あまりにも予想もしていなかったことを言われて、すばるは理解に時間がかかっている。
「…え?え?パパ何言ってるの?」
「言った通りのことだよ。明日から引越しの準備をするんだ。いいね。」
すばるは真っ白になって固まっている。
「何で…?私ここにいたらいけないの?邪魔なの?パパといたらいけないの?」
すばるはボロボロと泣き出した。
「そうじゃない。すばるが邪魔なんじゃない。それだけは誓って言えるよ。お前も大人になるんだから、一度俺と離れることが必要なんだ。
自立の練習だよ。俺たちずっと2人だけでいたらダメなんだ。自立してお互い大切にできる様に。その練習だよ」
「嫌だパパと一緒にいたい…だって…私パパのことす…」
最後まで言う前にタクヤはすばるを抱きしめて背中をポンポンと撫でた。
「そっから先は、いつか大切な人が出来たら言ってやりな。
俺たちは親子だから。辛いこと言ってるけど、分かるね。
俺は親として変わらずすばるのこと愛してるよ。きっとすばるにも貴重な経験になるから、シュリのところに行くんだ。いいね」
そんなこと言われても嫌で嫌で仕方ない。でもタクヤが真剣に話してるのも分かる。言ってることも分かる。
自分たちは親子なのだ。血が繋がらなくても。
すばるは自分の気持ちを既に自覚していた。
だからこそタクヤも引き離そうとするのだ。
分かってる…
報われないってこと。
「分かった…でも、たまに帰って来てもいいでしょう?…それに、離れても、私のこと忘れないでいてくれる?だ、誰かパパに好きな人できたら…うっうっ…ずびっ…ちゃんと教えで…」
最後の方は何言ってるかよく分からなくくらい大泣きしてしまった。
タクヤはその言葉全部に、うんうん、大丈夫、分かったよ、約束する、愛してるよ、と答えた。
次の日から引っ越し準備を進めて、全部の荷物がまとまった時。
ものが無くなった部屋を見渡し、すばるは深呼吸した。
私は一歩を踏み出す。
パパ以外の世界をちゃんと見て、自分の人生を生きるのだ。
タクヤは業者とともに荷物を運び出し、すばるとあらためてリビングで話をした。
「パパが勝手に決めてしまったのに、すばるは理解してくれた。ありがとうな。当たり前だけど、ここはお前の家だから。いつでも帰ってきて。そして、シェアハウスでの生活を、たのしめるといいな」
「うん。パパありがとう。こうする方が良かったんだよ。絶対に。私頑張るね。」
タクヤは微笑んですばると握手を交わした。それはつまり、ハグをして愛してるってことは、もう終わることを表してた。
シェアハウスまでタクヤに送ってもらうと、すばるはここでいいよと言った。
重いものは搬入終わったし。あとはゆっくり荷解きするから。
今まで見せたことのない、少し大人びた顔のすばるがそこにいた。
「おう、じゃあ、気をつけてな。シュリもいるんだから、何かあったら頼るんだぞ。それじゃあな、なんかあったら連絡してこいよ」
車が行きかける。窓が閉まる前に、すばるは追いかけて窓を押さえた。
「パパ、ありがとう。私パパが大好きだよ。好きな人ができたら教えてね。私も教えるから。きっとだよ。約束」
「…ああ、俺も大好きだよ。もちろん、ちゃんと話すさ。すばるは俺の娘なんだからな」
タクヤは微笑むと再び車を発進させた。
すばるは見えなくなるまで道の真ん中に立って見送っていた。
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