レナはベッドに横になったけど、どうしても気になって落ち着いていられなかった。
拓也さんが誰かと寝ているなんて絶対に嫌だ。
拓也さんにキスされたり、抱かれたりしてるんだ。私の知らない拓也さんの顔見てるんだ。
そう思ったら胸が張り裂けそうだった。
拓也さんは私を子どもだと思って相手にしてくれないのかな。
それとも、魅力がないのかな。
これからも一緒にいたいから、今の関係を壊すようなことはしたくない。
だけど…
こんな中途半端なままじゃたまんないよ。
レナはいつか勇気を出して拓也のベッドに潜り込んだように、今も勇気を出す時だと思った。
拓也に相手がいたとしても、自分のことをどう思うのか、確かめてみようと思った。
気持ちを切り替えて生きるためにも。
レナは起き上がってベッドに座り、ぎゅっと拳を握って深呼吸した。
「拓也さん、寝た?」
部屋を出て、そっと拓也の部屋に呼びかけた。
「ん?起きてるよ。どうした?」
部屋を覗くと、拓也は機材やパソコンのあるデスクに座って作業をしているようだった。
「あ、ごめんなさい。お仕事中だったらいいの。大したことじゃないから」
大したことなんだけど。
「いや、いいよ。今ちょうどひと段落したところだから。」
拓也は微笑んでくれた。
レナはベッドをそっと見た。さっきのバスタオルはいつのまにか洗濯機に放り込まれたようで、無くなっている。
「あの、ね」
いつになくレナがもじもじしている。
「拓也さんに聞きたいんだけど…わ…」
「わ?」
レナは下を向いてぎゅっとTシャツの裾を握っている。
拓也はデスクから立ち上がって、どうした?とレナを覗き込んだ。
ドキッとして、反射的にレナは一歩後ずさりした。
「私のことっ…どう思ってる?」
「えっ」
レナは泣きそうな目で拓也を見た。
「どうって…妹みたいな感じかな」
妹っ!
「それはなんか分かってた。違うの、あのね、私を…女として、見てはくれない…?」
勇気振り絞ってこんな思い切った質問をしたのだ。
いくらクールなレナでも、涙は出そうになるし、ガクブル震えちゃうし、答えが怖かった。
その時のレナは、いつもと違ってか弱い健気な女の子になっていた。
「あぁ…そっか、ごめん。俺、お前に失礼なことしてたよな。風呂上がりでバスタオル一枚の姿見せたり、気も使わないで…」
「ちっがーう!!もうっ!!バカ
っ!!」
あまりにも鈍すぎて、実力行使しかないと思ってレナは拓也に抱きついた。
「こういうことだよ?」
レナはもうやるしかない、と顔を真っ赤にしながら、背伸びをして拓也にキスをした。
「……!」
拓也は驚いて目を丸くしている。
「拓也さん、私、拓也さんのことが好きなの。もうここに来ちゃダメって言われてもいいから、今は女として私を見て。…それとも、彼女がいるからダメ?」
「彼女?そんなのいないよ。ていうかお前…そっか、ほんとごめん。俺鈍すぎて」
「いないの?!だって…さっき、枕…」
「まくら?……あ。」
「あ?あってなに?!あれ、動かぬ証拠だよね。銀髪のショートヘア。隠さないでいいよ。もう分かってるし。拓也さんに彼女がいるなら、なおさら、確かめておきたかったの。このままじゃ私、切り替えられないもん」
拓也はなんて答えようか、逡巡した。迂闊だった。もちろん彼女などではなく悠斗が使ったものだ。
しかしレナにそのことを話すわけにもいかないし。
「なんでそんな困った顔するの。そんなに話ししたくないならもう、いいよ。私後に引けないもん。拓也さん、私は魅力ない?私には、 興奮しない?」
レナは泣き出しそうな顔で拓也を見つめてくる。
「お前はいい女だよ。いつも気が強くて凜としてて、だけど本当は優しくて照れ屋で甘えん坊で。かわいいよ。魅力無いわけない。すごく魅力的だよ。」
「でも…興奮はしない?抱きたいとは思わない?」
レナの声は涙で上ずり、そこには普段のレナにはない色気があった。
「俺はお前のこと、いかがわしい目で見たことないよ。でもそれは妹だと思ってたからだ。だけどそんなに女の顔されたら、そりゃあ興奮するよ」
それを聞いてレナはものすごく嬉しそうな顔をした。
その様子はとても可愛らしくて、流石に拓也もちょっと揺れた。
「拓也さん、お願い」
レナが伝えたいことは分かっていた。
「私は傷つかないから。拓也さんが私を恋愛の目で見てないことは知ってる。相手がいるのも分かった。その人に迷惑かけないから。今日だけでいいの。わたしのわがままを聞いて」
こんな真剣なレナに、どうやって答えたらいいのか。拓也はしばらく言葉を探してから口を開いた。
「レナ。お前は魅力的な女だ。ほんとだぞ。だけどな、俺は俺のことを好きな女を無責任に抱かない」
「どうして?」
レナは下唇を噛みながら涙を堪えて話を聞いている。
「寝たりなんかしたら、好きな気持ちは執着になって、お前をいつか苦しめるよ。お前は俺にとってかわいい存在だけど、恋愛じゃない。お前を苦しめたくない。だからだ。」
拓也は抱きついているレナの背中をトントンと撫でながら諭すように言った。
「俺ひどいよな。ごめんな」
「…いいの。悔しいけど。はっきり言ってもらえて、よかったよ。私これで少しスッキリした。」
レナはボロボロと泣きながら言った。
「ねぇでも、キスくらいはいいでしょ。こんなに勇気出したんだから。」
拓也は迷った。それだってきっとレナを苦しめるはずだ。
でも、意を決して真剣に拓也を見つめるレナを見ていたら、これ以上ダメだなんて言えなかった。
わかったよ、と言うとレナにそっとキスをした。
「もう少しだけ。もっとして。今日だけだから。」
拓也はうなづいてレナが望むままに、深く何度もキスをした。
その日のことを、レナは絶対に忘れない、と思った。
好きな人とキスできた。それだけで死んでもいいと思えた。
空想都市一番街
このサイトは管理人「すばる」の空想の世界です。 一次創作のBL、男女のお話、イラスト、漫画などを投稿しています。 どうぞゆっくりしていってくださいな。
0コメント