「どうしてあんな言い方するんだよ。アオは人間のことちっとも分かってない」
僕は怒って言った。
あの男の人はとても傷ついてた。
「そう?だって忘れたがっていたのは彼だよ?だから大丈夫って言ってあげたのに。」
「苦しいからいっそ忘れてしまいたいと思うことと、本当に忘れたいと思うことは別だよ。」
僕が言うとアオはふうんとため息をついた。
「人間の見てる世界は狭すぎて、時々視線を合わせるのを忘れてしまうよ。
今忘れたって後で忘れたって同じなのに。人間にはおおごとなんだな」
「当たり前だろ。人間は寿命も短いし、生きてる時のことはとても大切なんだ」
それを聞いてアオは、そっか、と思い出した様に言った。
「人間は、知らないんだったな。
みんな大きな木の、葉っぱの一枚一枚だってこと。」
アオは立ち上がると背伸びをした。
「お詫びにさっきの人に、マシな夢をみせてくるよ。そのために少し、彼のこと見てくる」
アオの視点は数年前に遡る。
そうまだ、セナが大学一年生の時。
セナは学費と生活費を稼ぐためにバイトしながら講義を受けていて、よく居眠りをして机に派手に頭をぶつけていた。
「またかね片岡くん!」
毎度教授に叱られていたけど、ある日隣に座っていた女の子が声をかけてきた。
「ふふふ、いつも眠たそうだね。よかったらフリスクたべる?」
「え?…あ、うん」
その子を見た途端、セナは雷に打たれたように彼女に釘付けになった。ショートボブの、目が大きくてキュートな女の子。
「ありがとう…!」
と言いながら彼女から手渡されたフリスクを手に出しまくっていた。
「ちょっとちょっと、そんなに食べたら辛いよ!!」
「あ!そうだね!ごめんねいっぱい出しちゃって!」
と言って片手いっぱいのフリスクを口に放り込み、バリバリ食べた。
「かっら…!!!」
「アハハ、そりゃそうだよ。片岡くんていつも面白いね」
辛くて涙目のセナをみて彼女はすごく可愛らしく笑った。
彼女の名前は「ユイちゃん」。
セナとユイちゃんには、両親を亡くして一人暮らしをしているという共通点があった。
それもあって、2人の仲はどんどん近づいていった。
セナは彼女の可愛くて健気で優しいところも全部大好きだったし、
ユイちゃんもセナの馬鹿正直で真っ直ぐなところが大好きだった
ある日セナはいつものようにユイちゃんと一緒にお昼ご飯を食べている時に言った。
「お、俺!!」
「わっ、うん、何?」
うわずって大きな声が出てしまった。
恥ずかしくて死にそうだった。
「俺っ、ユイちゃんが好きだ…つ、つ、つき」
「…付き合って、だよね?」
ユイちゃんは言葉に詰まるセナの手に自分の手を重ねた
「いいよ。私もセナくんが大好き。」
ユイちゃんはにっこり笑って答えた。
その顔が愛しくて愛しくて。
セナは嬉しくてお店の中で「ありがとう!!」と言ってユイちゃんを抱きしめた。
「わ!セナくん、ストップストップ!ここお店だってば!」
「あ、ごめん!!」
と、2人は恋人同士になったのだった
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