Heart of Gold ⑥

タクヤの車から見える外の世界が、次々に変わって行った。
地方都市の面影はどんどん消えて、まるで巨大ロボットみたいな「東京」が姿を現した。

高速の池袋の出口を出る。

タクヤは池袋サンシャインの周りをぐるりと回って、狭い月極駐車場に車を停めた。

「ここから近いから荷物持っていくぞ。店の前に車停められねぇんだ」

響は大き目のリュックとエレキギターとアコギを抱えた。結構な大荷物だ。

「お前すげえ荷物だな。まあ、音楽やる奴はいつも重い荷物持つからな。慣れとくといいぞ」

タクヤはそう言って小さなボストンバッグ1つ持つと、スタスタと歩き出した。

響は大荷物で後を追う。

首都高の暗くてうるさい高架下に、小さな店構えのスタジオが見えてきた。

排気ガス臭い空気に響は少し吐き気がした。

信号を渡りスタジオにやっとたどり着く。

そこがタクヤの店。

オレンジ色を基調にしたスタジオ「ギガヘルツ」だ。

店内に入ると、受付の中から大学生くらいの女の人が出てきた。

ショートボブくらいの長さに切りそろえられた黒髪で、意志の強そうな目をしている。

「拓也さんお帰りなさい。その子が例の?」

「おう、留守中ありがとな。こいつが響だよ。色々教えてやってくれ。」

女の人は興味深そうに響を見て、少しだけ微笑んだ。見た目通りクールなタイプのようだ。

「よろしく。私は河野玲奈(こうのれな)。とりあえずギターこっちに置いて」

レナは受付の奥の扉の中に響を通して、ギターを置かせた。受付の中はケーブルコードやキーボードが所狭しと置いてある。

「レナ、よろしくな。俺は一回帰るわ。響、色々こいつに聞いて仕事教えてもらえよ。」

タクヤはそういうとあくびをしながら伸びをした。

「あ、レナ、一通り教えたら俺んちに響連れてきて。お前は今日も俺んち泊まるか?」

「ううん、今日は早番だからうちに帰る。」

タクヤは、分かった、じゃあなと言って出て行った。

響はタクヤが行ってしまうと、なんだか良からぬことを想像してしまった。

『お前は今日も俺んち泊まるか?』

レナはタクヤの家に泊まるような、そういう間柄なのだろうかと…

そんなドギマギした気持ちが読まれたのか、レナは響の顔を覗き込んできた。

「私と拓也さんができてると思ってやらしいこと考えてるんでしょ」

「えっ、いやその…」

やらしいことって…

響は恥ずかしさで目が泳いでしまった。

「私家が遠いから、遅番の日は拓也さんちに泊めてもらうこともあるけど。全然そういう関係じゃないよ。社長っていうか、アニキって感じ」

レナは愛想なく言うと、じゃ案内するよ、と言ってスタジオの方を親指で指した。

「あ、はい、お願いします」

響はレナの後をついて全部のスタジオを見せてもらった。


スタジオは全部で3つあった。

1番広いスタジオのほかは同じくらいの大きさのやや狭いスタジオが2つ。

「うちは小さいから部屋が3つ。置いてあるものもだいたい同じだよ。…そういえば、スタジオには行ったことある?」

「あ、いや、うちの近くにはないから…今日初めて見ました」

レナは響の答えに頷きもせず歩きながら言った。

「じゃここに置いてあるものや、受付の中にあるもの、ちゃんと教えるから。音楽をするのに何が必要なのか、よく見て覚えて。」

響はレナの言葉にハイ、と返事をして、スタジオ内を色々見せてもらった。

その間もレナは愛想なく、ほとんど響と視線を合わせることはなかった。


その後受付に戻ると、受付のカーテン
を開けてレナは壁に寄りかかりやっとまともにこちらをを向いた。

「これ、シールド(ギターケーブル)。それと、シンセやエレピは貸し出しだからここに全部置いてある。エフェクターもここね。」

響は改めてそこに置かれたものたちを見回した。響の欲しいエフェクターもたくさん置いてあって、使ってみたくてドキドキした。

「予約の管理はパソコンだから、それは明日詳しく教える。今日は機材について少し覚えてもらうよ」

レナはニコリともせずに言うので、なんだか威圧感がすごい。

「よろしくお願いします。あの、河野さん、なんか怒ってます…?」

響は何か失礼なことをしたかと思って聞いてみると、意外にもレナはちょっと顔を赤らめた。

「怒ってない。よく言われるけど。愛想がないだけ」

フン、とそっぽを向かれてしまった。

その後響はしばらく受付の中の機材について説明を受けた。

一通り聞いた後、レナががレンタルから返ってきたシールドを束ね直し始めたので響もそれを手伝った。

「それ違う。束ね方はこう。これはこれから音楽していく中ですごく大事だからね。あと、私のことはレナでいいから。苗字で呼ばれなれてないから変な感じなの」

「あ、はい、レナさん」

無愛想なのに時々照れて、ふてくされるように頬を赤らめるレナのことが、響はちょっと可愛く思えた。

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