翌朝の明け方、玄関からカン、カン、と音がして響は目が覚めた。
キーホルダーのチャラチャラした音も聞こえるし、拓也が鍵を鍵穴に刺そうとしてうまく刺せないようだ。
響が開けに行こうかと思った時、ようやく鍵が刺さったのか、ガチャリと音がして玄関のドアが開いた。
ドサッと玄関に座って、ブーツを雑に脱いで放るような音がした。
ふらふらした様子で何度も壁にぶつかったり、CDの山が崩れる音がしたので、響は様子を見に行った。
「橋沼さん、大丈夫すか?」
「おう響。ちょっと飲みが長引いてな、結構酔った。」
少しろれつが回っていない様子で答えた。
「悪いけど水くれるか?俺着替えるから」
拓也は着ていたシャツを脱いでメタTを着ると、リビングの椅子に座った。
響は冷蔵庫の中のミネラルウォーターを差し出した。
「お前に情報もってきたぜ。武内さんの情報。」
拓也はミネラルウォーターをグビグビと飲み干した。
「武内さんの?」
響はリビングの椅子から立ち上がって身を乗り出した。
「そう。俺の友達でCD屋やってるアツシに聞いたんだが、インディーズアルバム出したアオハルってバンドがいるんだけどな」
「それが、どうしたんすか??」
「そいつらの、プロデューサーなんだとよ。武内廣治が」
「えっ!!マジすか!!叔父さんが?!」
響は驚いて拓也の腕を掴んでさらに前のめりになった。
拓也は少し笑った。
「ふふ、そうだよ、お前の叔父さん。なんだかそうやって衝動的になってる時の顔も、似てるよな」
拓也はポンポンと響の肩を叩いた。
「ごめん、俺けっこう飲んで、もう起きてられねーや…また明日なぁ」
拓也はふらりと立ち上がると、スキニーパンツのまんまでベッドに倒れこんで、すぐに寝息をたてて寝てしまった。
拓也には叔父のことも詳しく話をしていた。子供の頃に会ったきりだということも、なにもかも。
(アオハルか…。)
どんなバンドだろう。響は一気に叔父に近づいたことに、興奮してしばらくリビングで立ち尽くしていた。
その日は朝10時からスタジオのバイトだったので、タクヤが眠った後響も少し眠り、
コンビニで買ってきたハムサンドを食べて スタジオに向かった。
スタジオにはもうレナが来ていて、店の掃除をしていた。
「おはようございます、すいません僕も早く来ればよかった。」
「いいよ。私が早く来すぎただけだから。掃除する場所と、今日はパソコンのこと教えるから。」
レナに掃除のことを教えてもらっていると、穴の空いたスネアが受付に置かれているのに気づいた。
「これ、捨てるやつですか?」
「ううん、また張り替えると思うよ拓也さんが。自分でやったんだし。時々あるんだ。誰もいない時に1人でドラム叩いてて、スネアブチ破るの。」
(え?スネアってぶち破れるんだ…どんだけ叩けば破れるんだよ…)
と響は半ば驚きと呆れたような気持ちで破れたスネアを見ていた。
「ところでレナさん、アオハルってバンド知ってます?」
早速レナにリサーチをかける響。
「アオハル?さぁ、聞いたことないけど。それがどうしたの」
「インディーズでCD出してるらしくて、プロデューサーは武内廣治って人で。どんな音楽かなって興味あったんです」
レナは、そう、と言ったまま淡々と仕事を教えた。
その日は何組かスタジオに入る人達がいて、何だかんだ忙しくて時間があっという間に過ぎた。
そしてそろそろ悠斗が来て交代する時間になった時、レナが、ちょっと、と響を呼んだ。
「インディーズの店行ったことないでしょ?CD買いたいなら教えるよ。」
響はレナの意外な言葉に驚きつつ、是非お願いします、と答えた。
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