すばるはこの数週間部屋に閉じこもって机に齧り付いて勉強している。
それもそのはず。
もうすぐ資格試験があるのだ。
すばるはケースワーカーの資格を取るために大学で勉強してきた。
その集大成として、国家資格に挑むのである。
この試験に受かって、ケースワーカーとして生きていけたら。
その時やっと、すばるはタクヤから自立して、一人の人間として独り立ちできるような気がしていた。
ちゃんと大人になれるのだ。タクヤも安心すると思うし、
ずっとなりたかったケースワーカーの仕事で誰かの役に立ちたい。
そうなれたら、タクヤを好きな気持ちも手放せるんじゃないかとも思っていた。
「すばる、今平気?」
シュリが部屋をノックした。
「ん?大丈夫だよ。どうしたの?」
シュリがそっとドアを開けて入ってきた。
手にはホットココアのマグカップが乗ったトレイ。
「勉強の合間に、お差し入れ。糖分は脳の疲労に効く」
シュリはそっとテーブルにココアを置いてくれた。
「ありがとう!シュリって本当気が効くし優しいよね。いただきます」
すばるは温かいココアのカップを両手で包んで、ゆっくりと飲んだ。
「泪に似てまめでね。この作り方も泪に教わった。うまいだろ?」
シュリは父親である泪が大好きなので、似ていることをとても誇らしく思っていて、ちょっと得意げになっていた。
「うん、すっごく美味しい!優しい甘さだね」
すばるはなんだかホッとした。
「ねぇすばる、資格取ったら、病院勤務希望なんだっけ。ここを出てどこか探すんだろ?」
このシェアハウスは基本的に学生だけの施設だから、就職したら出ないといけない。
「うん。どこかアパートとか探すつもり。それでお仕事頑張ってさ、一人で生きていけるようになったら、私やっとパパから卒業できる気がする。」
「タクヤから卒業、か…」
シュリはソファに腰掛けた。
「すばるはタクヤへの気持ち、手放したいんだもんな。」
「うん。どんなに好きでも、パパだもん。だから、早く手放して自立しなきゃ」
何度も悩んで何度も泣いて、すばるの中での結論が今の状態だ。
シュリはそれに何か言うつもりはなかった。
「試験応援してるよ。すばるならできる。それで最高の卒業式迎えたいな。」
すばるは笑顔でうなづいた。
「あれ…そう言えば、この前本命の相手が出来たって言ってたよな…?」
「え?あ、ああ!そうだよ〜!パパとは別に、いいなって思う人できたんだ。もうすぐバレンタインだから、お菓子渡すの楽しみなの!」
なんだか様子が変だと思ったけど、シュリは、ふぅんとうなづいた。
「そっか。そいつが羨ましいな」
「えっ?」
「あ、なんでもない。そんじゃ俺行くね。勉強頑張ってね」
シュリは空いたカップを持ってそそくさと部屋から出ていった。
すばるはため息をついてベッドに寝転んだ。
本命の相手…
タクヤのことを忘れたくて無理やり作ってはみたものの…
それで自分の気持ちがおさまると思えなくなってきた。
それでも、後には引けない。
自分で決めたのだから。
クリスマスにタクヤにもらったトナカイのぬいぐるみを抱きしめてすばるは気持ちを新たにした。
それからまた机に向かって深夜まで勉強をしたのだった。
空想都市一番街
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