親友の言葉

タクヤとルイはレコーディングの真っ最中。

お昼が近づいてきて
「そろそろ休もうか」とルイは声をかけた。

二人はカフェスペースで休むことにした。

「なあタク。ちょっと話したいことがあるんだけど。今夜海辺にでもいかないか?」

「いいよ。何だよ改まって。今言えないこと?」

「うーん、そういうわけじゃ無いけど。静かなところで話したいなと思って。怖いことじゃないから安心して」
ルイは微笑んだ。


二人はその日のレコーディングを終えると、車でベイエリアにやってきた。

「それで、どうした?話って」

タクヤが聞くと、ルイは微笑んでタクヤの目を覗き込んだ。

「タク、きみ今、自分に嘘をついてるよね。僕には分かるよ。」

急なツッコミに驚いて、タクヤは笑って誤魔化した

「ハハ…何の話?」

ルイはしばらく黙っていた。

「…僕は、もし、タクが幸せになるなら必ず応援する。何があっても。」

流石にタクヤも、ルイが何を言いたいのか分かった。

「タク、幸せになっていいんだよ。あの子と。あの子も君を求めてる。」

ルイの言葉は、タクヤの心の乾いた砂漠のような部分に染み渡っていった。

その瞬間、タクヤは飢えていたことに気づいたのだった。

ずっと誰かに気づかれるのを待っていたその部分が、今ひとしずく与えられて震えているようだった。

「タク?大丈夫?」

ルイの声に、ハッと我に帰る。

「何、言ってんの。そんなの、許されな」

「そんなの分かってる」

ルイはタクヤを遮って言った。

「でも、世の中には許されなくても一緒に幸せに生きてる人もいる。
タブーを犯せって勧めたいわけじゃない…でも僕は只タクに幸せになって欲しい。ずっと自分のこと後回しで誰かを幸せにすることばかり考えてるきみが、1番幸せになって欲しい。そのためなら僕は何があってもきみの味方だ。」

ルイはサングラス越しに真っ直ぐな目でタクヤを見ている。

タクヤ自身も気づかないこと、いや、目をそらして気づかないふりをしてきたこと、なぜルイには分かったのだろう。

「…ルイ、ありがとな。ただ、それについては今は何も言えない。俺自身がまだ向き合えてないんだ。でも…ありがとう。」

タクヤはそれ以上言葉にできなくて、泣きそうな顔をしながらニコッと笑った。

その顔を見て、ルイも優しく笑った。

「いつでもタクの味方。忘れないで」


帰りにシーフードレストランでご飯を食べた。

「なぁ、なんで俺の気持ち分かったの?」

とれたてのシーフードがたっぷりのグラタンを食べながらタクヤは言った。

ルイはその質問に答えず優しい目でじっとタクヤを見つめている。

「なんだよ。なんかついてる?」

「フフッ。ついてる。」

ルイは紙ナプキンでタクヤの髭に付いたホワイトソースを拭った。

「ありがと」

ニコッとタクヤは笑う。

「タクはねぇ、人を守るためなら上手に嘘をつくくせに、自分のことは下手なんだよ。根が正直だから分かりやすい。少なくとも僕には全部お見通しさ。僕の目は万物を見通す目」

「えっ、俺、そんなに分かりやすいの?すごい恥ずかしいな…て言うかルイの目ってプロビデンスの目かよ」

タクヤは赤くなりながらツッコむ。
ルイはアハハ、と笑ってペリエを飲んだ。

「僕はあの秘密結社の手先なんだ」

「じゃあ俺に世界の秘密を教えてくれよ」

「それは上層部だけの秘密。どうしても知りたいならそれなりの代償が必要さ…例えば、きみのその声とか」

タクヤはルイの悪ふざけにバーカ、とツッコんで二人は笑った。


今日、ルイに言われた言葉がタクヤは本当に嬉しかった。

「いつでもタクの味方」

そんなふうに言ってくれる親友の存在が心からありがたかった。


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