すばるは朝から友達のレナの家でお菓子作りをしている。
今日はバレンタインデーだ。
好きな人にチョコレートやお菓子、贈り物をして告白するべく、女の子たちは臨戦体制。
「ねぇ、すばるは本当にヒロトにあげるの?」
クッキー生地を伸ばしながらレナが聞いた。
卵白を泡立てながらすばるが答える。
「うん、そうだよ!レナは拓也さんでしょ?」
「う、うん、まあね。拓也さんは義理みたいなもんだけどさ。あんたのタクヤさんにはあげないの?」
「パパ?もちろんあげるよ!あとシュリにも。頑張って作らなきゃね」
ニコニコと頑張っているすばるだったが、レナはその中の少しの「無理」を感じ取っていた。
本当はタクヤのことが1番好きなくせに。ヒロトに惹かれているフリをして周りも自分も騙すことで、手放そうとしているすばるの姿が切なかった。
「あっ!クッキー焦げてるよ!!」
「あっやだ!キャー!!」
朝からドタバタとレナの家は賑やかだ。
シェアハウスでは昨日の夜に聞いた話を頭の中で繰り返しているシュリがいた。
『私ね、ヒロト君が好きなんだ。』
すばるがリビングルームでそっと教えてくれた。
好きな人はいるけど秘密だと言っていたすばるが、明日はバレンタインだからと教えてくれたのだった。
よりによってヒロト…
シュリは頭が真っ白になってしまった。
ヒロトは大学内でも知らない人はいない、バスケ部のヒーローだ。
卒業後はプロバスケチームに所属することも決まってる。
バスケではスーパープレーをするが、普段は至って物静かで温厚。
義理堅く硬派で面倒見のいいところもあって、男女共に人気がある。
「非の打ちどころのないヤツじゃねーか…邪魔する理由がない…あー、どうすっかな…」
悶々と頭を抱えるシュリ。
結局、自分はどうしたいのか、自問した結果、
『タクヤとくっつくなら許せるけど、やっぱり他のやつは許せない』
に至ったのであった。
そして心を決めたシュリはタクヤに電話をかけた。
空想都市一番街
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