節分のお話

明日は節分。

豆まきの日だ。

すばるも子供の頃、よくタクヤを鬼にして、升一杯の豆に手を突っ込み思い切り投げつけたものだ。

それまでまともに豆まきをやるような環境で育ってこなかったので、初めてできたことが本当に嬉しかったことを覚えている。

タクヤはそういう行事にマメで、よくすばるにいろいろなことを教えてくれた。

すばるはベッドに寝転んで天井を見上げる。

明日は実家に帰ってタクヤと過ごす。資格試験前の最後の息抜きだ。


「また帰っておいで。豆まきの時にでも笑」


と前回お正月に帰った時タクヤに言われたことを思い出してすばるはちょっと笑った。

もしかしたら、ちょくちょく帰るのもこれが最後かも知れない。

試験終わって、就職決まって、卒業して…部屋も決まったら、きっとそれぞれの生活になっていくのだろう。

すばるはそう思ったら寂しさや不安で胸がいっぱいなった。

とにかく寝てしまおう。

そう思って、暖かい毛布を首までかけて、ゆっくりと眠った。


次の日。

夕方にバスで帰ることにしたすばるは身支度をしてシェアハウスから出かけた。

今回はシュリとルイもタクヤの家に来る。

シュリとは同じシェアハウスで暮らしてるけど、今日はバイト帰りにそのまま来るとのことで、すばるは1人でバス停までの道を歩いていた。

その時ふと、すばるは思いついた。
何か面白いことして、タクヤを驚かせてやろうと。

顔見るとつい寂しくなってしまうから、せめて笑えるようなことをしたい。

ショップも並ぶ賑やかな道を歩きながらふとあるものが目に入り、

すばるは目を輝かせながらその店に入っていった。


「お邪魔しまーす。あれ、すばるまだ来てないの?」

タクヤの家に上がったシュリがキョロキョロと部屋を見渡す。

タクヤは料理をしていて、ルイはソファで新聞を読んでいる。

「うん、バスで来るって言ってたからもうそろそろ着くはずなんだけど…」

タクヤがフライパンを振りながら言ったところでチャイムが鳴った。

「あ、来たかな。俺が出るよ」

タクヤはエプロンで手を拭いて、廊下にあるインターホンのスイッチを押した。

カメラには訪問者の姿が映るはず…

「あれ?誰もいない?」

不思議に思ったタクヤが様子を見ようと玄関のドアを開けると…

「うわぁー!!!」


リビングにいたルイとシュリはその声に驚いてバタバタと玄関に走っていく。

玄関ではへなへなと床に尻餅をついたタクヤが腹を抱えて笑っている。

「どしうたのタク?」

と不思議そうにしている2人に、玄関ドアからヌッと現れたのは、1メートルくらいありそうな大きな赤鬼の顔。

「ギャー!!!」

2人がへなへなと座り込むのを見ると、赤鬼がプルプルと震えだした。

「プッ!!!アッハハハハ!!!みんなリアクション最高だね〜」

大きなお面を外してすばるが表れた。

「何やってんの?」

タクヤが笑いながら聞く。

「みんな驚かせようと思ってさ!衝動買いしちゃった!」

すばるは得意そうに言って赤鬼のお面を玄関に置いた。

「バカなの?そんな目立つもん持ってよく来たな」

シュリが呆れている。

「こんなにびっくりしたの久しぶりかも!アハハハ!!」

ルイは嬉しそうに笑っている。

「ったく、いたずらっ子め。さあみんな中へ入ろう」

タクヤはすばるの頭を嬉しそうにくしゃくしゃと撫でると、そっと肩を抱いてリビングに向かった。

アレ?

すばるはその仕草が久しぶりで。
もうずっとされてなかったから、どきどきしてしまった。


その夜はタクヤの手料理をみんなで食べておいしいお酒を飲んで、楽しい時間を過ごした。

「節分に大声出すのってすばるが小学生の頃以来かな。あの時は豆を投げつけられて本当に痛くて大声出してたけど」

タクヤの言葉にみんなで笑った。

「子供って容赦ないよね。シュリにも豆たくさんぶつけられたよ。懐かしいね」

ルイはニコニコと思い出を語る。

「それにしてもあんなお面よく売ってたね。もしかしてアレ持ってバス乗ってきた?」

「うん!バス通り沿いのショップに売ってたの見て買ったんだ。その店のおじいさんが手作りしてるんだって。バスでは流石に、ジロジロ見られたけどね」

すばるはアハハ、と笑った。

「アレ見たら子供泣くぞ…そういえば帰りのタクシー、あんなでっかいの乗らないよ。どうすんの」

シュリが冷静に突っ込むと、すばるはあっ!と声を上げた。

「無理だね!!パパごめん、家に置いておいていい??」

「そうなると思ったよ。魔除けにでもなりそうだし、廊下に飾っておくよ。ちょっと怖いけど」

みんな笑っていた。

ちょっと大袈裟にやりすぎたけど、みんな笑ってくれてよかったとすばるは思った。

やっぱりこうやっていつも、タクヤとは笑っていたい。
泣いてる顔じゃなくていつも笑顔を見せたいし、
タクヤを困らせたくない。

手放すなんて全然できてないのかもしれないけど、

こうやって親子として一緒に過ごせればいいのだ。


夜更けになり、それぞれが帰路に着く。

タクヤはタクシーを待っているすばるに話しかけた。

「もうすぐ試験だね。応援してるよ。」

と言いながら、神社の合格お守りをくれた。

「パパ…ありがとう。私、頑張るね!!」

この前の時と違って、すばるは心から笑顔でタクヤと別れられた。

「次は卒業式かな?その前にも、いつでも帰っておいで」

タクヤの言葉に笑顔でうなづいて、すばるとシュリはタクシーに乗りこみ帰って行った。

「んじゃ、僕も帰るね。ご馳走様、タク」

ルイはタクヤの肩をポンポンと叩いた。

「なんだか力が抜けたんじゃない?力まないで。君は自然にあの子と接すればいいんだよ」

タクヤは以前より素直に微笑んだ。










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