Heart of GOLD 12

次の日の朝、響はイビキをかいて寝ている拓也を横目に準備をして家を出た。

今日は初めて悠斗とシフトに入る日だ。

レナは2日ほど自分のバンドの用事があるので休みなのだった。

レナのバンド見てみたいと思いつつ、響はスタジオに入った。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「響くん、よろしくね。初めて一緒だね。」

悠斗は相変わらず全身黒のスタイルにピアスがたくさん、だけど爽やかな美形だ。

一緒に掃除や機材の整理をしたり利用者が来たりしてその日もあっという間に時間が過ぎて行く。

やっと落ち着いた時、悠斗はタバコに火をつけて言った。

「響くん、武内廣治さんを探してるんだって?俺二回見たことあるよ」

「え?どこでですか?」

響はシールドをレナに教わった通りに束ねていて、驚いて顔を上げた。

「一回はインディーズのライブイベントで。いろんなバンドが出るイベントでさ。武内廣治っていえば俺たちの中じゃちょっとした幻の人だから、あの人だよって教えられて、ちょっとテンション上がったんだ。」

悠斗さんは灰をトン、と灰皿に落とした。

「2回目は、江古田に行った時、飲み直そうって練馬までの道を歩いてたんだけど、陸橋の下の狭い歩行者用のトンネルの中、ちょうど真ん中あたりでね、アコギ持って座って歌ってたよ。ハット被ってたけど、あれは武内さんだった。」

響は驚いてしまって、しばらくポカンと悠斗の言葉を噛み砕いていた。

「そんなにびっくりした?」

「しますよ、武内さんが歌ってるなんて知らなかったし…どんな歌だったんですか?」

「あの道狭いし、立ち止まってゆっくり聞くような雰囲気じゃなくて、ちゃんと聞けなかったんだけど、耳に残る印象強さがあったよ。
歌詞は悲しい感じで、だけど激しい曲でさ。武内さん優男なイメージだったから、意外でちょっと驚いたな」

響はその歌をものすごく聴きたかった。

「それって、いつのことですか?まだ歌ってるかな」

「あれは一年くらい前かな。土曜の夜。多分夜10時半くらいだと思ったなぁ。まだやってるかは分からないよ。必ず土曜とも限らないし。あの時だけかもしれないし」

そうかもしれない。でも響は行ってみようと思った。たとえ会えなくても、叔父がいた場所に行ってみたい。

だけど今週の土曜はアオハルのライブだし、そもそもそんな夜に出歩いてたら補導されてしまうだろう。

悠斗はそんな響の心配を察したのか、微笑んでタバコを灰皿にもみ消した。

「拓也さんに頼んで一緒に行ってきたら?俺はいつも遅番だから連れて行けないし。拓也さんなら喜んで連れてってくれると思うよ。響くんのことすごく気に入ってるし」

「あ、はい…気に入ってくれてるんすかね?」

悠斗さんは2本目のタバコに火をつけると、煙を吐き出しながら言った。

「当たり前。じゃなきゃ君をここまで連れてこないよ。拓也さん、興味ない人には本当に興味ない態度するから。分かるでしょ、あの人裏表無いし。」

フフッと悠斗は笑った。

響は何となく、嬉しいような気持ちで照れ笑いをごまかした。

そんなやりとりをしながら時間は過ぎ、今日の遅番の拓也がスタジオにやってきて響と悠斗と交代した。

「響、今日飯作れなかったから、なんかコンビニとかサンシャイン通りとかで適当に食べろよ。ちゃんと鍵かけて」

そう言った拓也に、悠斗は笑いながら言った。

「ほんと拓也さん、響くんの兄貴みたいですね。」

「まあな。適当な兄貴だけど」

それから響たちは店を出て、悠斗はバンドの練習があるからと言ってサンシャイン通りで別れた。

一緒にご飯食べられなくてごめんね、また行こうね。と、女の子だったらイチコロだろう微笑みで去っていった。

響はご飯をどうしようかと思い、ふらっとサンシャイン通りに出かけて、ラーメンを食べてから帰った。

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