「プラチナチケットの時間ってなあに?」
すばるが不思議そうに首を傾げる。
「ふふ。あ、タクヤだ。俺たちは別のテーブルに行ってるね」
シュリはウインクをして、レナと共に席を離れていった。
「え?あ、パパ!」
ステージの方からすばるに向かってタクヤが歩いてきた。
すばるは、笑顔が溢れて、まるで世界が薔薇色になったみたいに胸がときめいた。会いたくてたまらなかった。
「パパ!すごくカッコよかったよ!」
すばるはニコニコと嬉しそうに笑い、タクヤに抱きついた。
タクヤも微笑んですばるを抱きしめて頭を撫でると、肩を抱いて、席に着く。
「ありがとう。すばるの前で歌うの久しぶりだから実はちょっと緊張してた」
「えっほんと?全然分からなかったよ。パパってば、前よりもずっとかっこよくて、ちょっと泣きそうだった」
「あはは、嬉しいよ」
なんて言いながら2人はテーブルのキャンドルの前で仲睦まじく手を握ったり頭を撫でたり、おでこを付け合ったり寄り添ったり、髪を撫でたり。
どこからどう見ても、2人は「親子」じゃなくて「愛し合う2人」。
微笑ましい2人を見て、誰もが温かい気持ちになった。
愛し合うことは素敵。
「ルイが言ってた通りになったな。きっとタクヤとすばるは結ばれるって」
シュリはジントニックを飲みながらピスタチオを齧った。
こんなに嬉しいことはないけど、なんだか悔しい。
「僕の目は「万物を見通す目」だから。何でもお見通しさ。
シュリも悔しそうにしてるけど、必ずいい子が現れるよ。君はシャイでクールで、愛する人を守るナイトだから」
いきなりルイに褒められてシュリはびっくりしてピスタチオの殻の方を口に入れてしまった。
「うわ、ペッペッ…なんだよ急に。それに、別に悔しくなんか…」
慌てるシュリにルイは笑いかける。
「シュリはずっとすばるちゃんを助けてきたよね。ナイトみたいだったよ。タクヤ以外に触れさせないようにって。君はいい男。それは本当。」
ルイにそんな風に優しく言われたら、シュリはもう何も言えなくなってしまう。ちょっと泣きそうになった。
もっと自分のために、アタックしたってよかったんだろう。
でも「親友」の本心を誰よりも分かってるのも「親友」だった。
だから、後悔してない。
大好きな「親友」は今、あんなに幸せそうな顔をしてる。
それに、ルイが言うなら本当なんだろう。俺っていい男。
「そうよ。それにあなたは優里ちゃんの息子ですもの。彼女譲りのセンスや勘の良さ。それに美形は血ね。とても魅力的よ。いつかいい人ができたら紹介してね」
愛美はミモザを片手に嬉しそうに言った。
母さんは親バカなんだからなぁ。
シュリは笑った。いつか自分も、愛する人に出会えたらいい。
すばるの幸せそうな顔を見てそう思った。
「レナ、愛し合う2人っていいね」
バーカウンターでは悠斗がつぶやく。すばるとタクヤの周りだけまるで空気が違うみたいにキラキラしてる。
「そうだね。早くこうなればいいのにってずっと思ってたから、やっと安心した。あの子のあんな顔、ようやく見れたな」
クールなレナも嬉しさを隠せない様子。先ほどからスプモーニを飲んで頬を赤らめている。
「でもあの人も若いのに1人でよく育てたよな。一回も手を出さないで大学も出して、立派だぜ」
「ちよっと拓也さん、下品な言い方しないでくれる?あっちのタクヤさんは真面目な人なのよ」
「それって俺が不真面目みたいじゃん」
拓也は笑って黒ビールを飲んでいる。
「じゃあ拓也さんなら、すばるさんが大人になる前に手出してました?」
悠斗がニヤニヤしながら聞くと、
「馬鹿野郎、当たり前だろ。取られちまうかもしれないし、こっちはどんどん歳をとるし。
色々葛藤があったと思うぜ。だからその分、今日は祝福してやらねぇとな。」
拓也は笑った。
拓也の言うことも分かる、とレナは思った。
どんなに好きでも、血が繋がってなくても、彼女は娘。
誰かに取られそうになっても何もできないし、すばるに誰かいい人ができるように、わざわざ距離を置いたり。
タクヤは精一杯やってきたと思う。
レナは今までの2人のいきさつを思い出して、ため息を一つついた。
「今日は報われる日。こんな日に立ち会えて、私は幸せだな。」
嬉しそうなレナの横顔を見て、悠斗も拓也も笑った。
「お姉ちゃん、幸せそうだね。」
隅の方の席で、こっそりとご馳走様を食べている四人の子供たち。
すばるの異父兄妹たちだ。
「呪術ブラザーズ」として、4人で活動している。
「うん。やっぱりおじさんは、お姉ちゃんのこと好きだった。私たちの予想通りだね。あ、スイくんそれ私のステーキ!!」
「また頼めばいいだろ?こんな美味いもの食べれるなんてそうそうないんだからさぁ。それにしてもお姉ちゃん、今日は一段とかわいいな」
「そりゃ、恋する女性は美しいんですよ。それよりタクヤさんもひさしぶりにリラックスしてるみたいですね。」
風くんが凄い勢いで料理を食べながら穏やかに言う。
「ね、私たちはいつでもおじさんとお姉ちゃんの味方。これからもずっとね。みんな、いい?」
ネムちゃんの声かけに、ルーちゃんもスイくんも風くんも元気よく、もちろん!と答えたのであった。
「さて、ご歓談の途中ですが」
ルイがステージのマイクに向かって言った。
「プラチナチケットタイム。タク、そろそろ始めようか」
タクヤはおう、答えて腕を上げる。
「すばる、行ってくるね。」
うん、と答えるすばるの前髪をかき分けて、おでこにキスをすると、タクヤはステージに向かった。
すばるは愛おしくてたまらない人の後ろ姿を見送った。
「みなさん、今日は本当にありがとうございます。これからプラチナチケットタイムのコンサートを始めます。ルイ、じゃあ、…」
また目を合わせてワンブレス。息がぴったりの曲の始まり。優しいロックバラードから始まった。
すばるは心地いいAZEMICHIの音楽にうっとりと聴き入った。
2曲目はすばるの聴いたことのない曲。優しいバラードだ。
なかなか想いを伝え合えない2人の歌。その世界にすばるは自分とタクヤを重ねた。
ずっとずっと、届かないと思ってた。愛し合うなんてできないと思ってた。
自然と涙がこぼれ落ちそうだった。
歌の最後の歌詞は優しい優しい声の「俺のそばにいろよ」
そばにいるよ。すばるは心の中でそう答えた。
歌が終わると、タクヤはマイクの前で一呼吸した。
「今日、このプラチナタイムは、実は俺がお願いして特別に作ってもらいました。ここに来ている人たちにはお話してあるんだけど、この場を借りて俺の気持ちを表したいと思います。」
すばるは??となりながら何の話かと聞いている。
実はすばる以外のみんなは、初めからちゃんと知っていたのだ。
タクヤは、ふう、と呼吸を整えると言った。
「すばる。こちらに出てきてくれるかな」
ルイはピアノで優しいメロディを小さく奏でている。
すばるは驚きながら、周りを見渡すとみんなが優しい目で見ているのに気がついた。
タクヤに手を取られ、ステージに上がると、仲のいい仲間たちが拍手をしていた。
すばるは、ステージ上でタクヤと向き合うように立った。
その時タクヤが赤い薔薇の花束を持って、すばるにひざまづき、すばるの手をとって言った。
「すばる。俺は君のことが好きだ。これからは1人の人間として、俺と一緒に生きてくれないか。君をずっと守ると誓うよ。君を愛してる」
そう言ってすばるの手の甲にキスをすると花束を渡した。
花を受け取ると、思いがけないことにすばるは涙が溢れてしまった。
まるで夢みたい。
「ありがとう。私も愛してます。あなたのことが大好きなの。ずっと一緒にいて下さい」
涙ながらに答えたすばるを一度抱きしめると、タクヤは指輪を渡してすばるの指にはめた。
指輪とタクヤを交互に見つめながらすばるは目を丸くしている。夢みたい。信じられないけど、ちゃんと現実なんだ。
すばるは嬉しくてそれからずっと泣いてしまった。タクヤが愛おしそうに優しく抱きしめてくれた。
レナもまなみさんも泣いちゃうし、シュリも胸がいっぱいで泣きそうだったし、呪術ブラザーズも喜びでいっぱい。
悠斗と拓也はテーブルの下でそっと手を繋いだ。
そんな仲間達が、温かい拍手でたくさん祝福してくれた。
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