次の朝響が目覚めると、拓也はいつも通り「おはよう」と言ってキッチンに立っていた。
「今日は朝からカツサンドだよ。さあ食べようぜ」
皿に山盛りのカツサンドを乗せてテーブルに運んで来た。
「あの、拓也さん昨日は…」
「そのまえに、いただきます」
「いただきます!」
いつもの癖で二人で声を合わせると、2人でカツサンドを手に取った。
響はそれを口に入れずに、拓也を見た。
「昨日はすいません。勝手に飛び出して」
拓也はカツサンドを頬張りながら言った。
「いいよ。お前にはお前の考えがあったんだろ?なんか手がかりあったか?」
拓也は何でもなかったように微笑んでくれた。
「悠斗さんが言ってた、叔父さんが歌ってたっていう江古田の陸橋の下のトンネルに行ってみたんです。誰もいなかったけど…それで、練馬まで歩いて電車で帰ってきました。」
ふむ、と言いながら拓也はコンビニのグリーンスムージーを飲んでいる。
「あのトンネルね」
「え、トンネル知ってるんですか?」
響はカツサンドを握りしめたままガタンと立ち上がった。
それを見て拓也は目を丸くして笑った。
急に笑われたので、響はムッとして拓也を睨んだ。
「ごめんごめん、そんな顔すんなよ。おまえ、いつも急に立ち上がったり、衝動的につかみ掛かったり、ほんとわかりやすいっつーか素直だよな。まあ座れ、話すから」
響は褒められてるのかなんなのか、よく分からない気持ちで座った。
「あ、ごめんな、これ褒めてるから。お前のそういうところ、俺は好きなんだよ。そうふくれるなよ。」
拓也は頭をかきながら申し訳なさそうに言った。
「それで、話の続きだけどな。俺も行ったんだ、昨日お前が行った後だと思うけど、そこに。おまえ江古田だの練馬だのにすごい反応してたしな。それに、悠斗が前に言ってたことも思い出してさ。武内さんが歌ってたってこと。」
「拓也さんもトンネルに?」
「そう。あんな寂しい道ってそうはないよな。歌うような道じゃねえって思った。けど武内さんは歌った。何か訳があるんだろうな」
響は黙ってスムージーを飲んだ。何か、訳がある。
「あの人が滅多に人前に出ないことも関係してるのかもしれねぇな。昨日『キャットタワー』の運営に問い合わせたけど、やっぱり連絡先教えてくれなかったよ。本人の希望で、外部に聞かれても教えないように言われてるそうだ。」
やっぱりダメなのか。響は下を向いてうなだれた。
「でも、まだ希望がない訳じゃない。お前夏休みまだ半分くらいあるだろ。今夜俺は知り合いの筋でちょっと話をすることになってる。もしかしたら武内さんの情報があるかもしれない。あったらお前に話すから。」
拓也はカツサンドをスムージーで流し込むとちょっと真面目な顔をして響を見た。
「そっからどうするかは、お前次第だ。お前がやりたいように動け。」
響はハイ、と答えた。拓也は既に何かを知っているような感じがした。
空想都市一番街
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