話が終わると響たちはそれぞれ部屋に入って横になった。
拓也の部屋のソファベッドは、少し硬かったけどそんなに寝心地は悪くない。
拓也はおやすみ、と言うとすぐ寝息を立てて寝てしまった。
響は、自分のために情報を探したり苦労して、疲れたんだろうと思った。
響も寝てしまいたかったけど、なかなか寝付けなかった。
父と叔父の間に何があったのか。
考えれば考えるほど、頭の中は混乱して眠れない。
響は諦めて、何か飲み物でも飲もうかとリビングに行った。
するとそこにはレナもいた。
「響、眠れないの?」
「はい、なんか、落ち着かなくて。」
レナは黙って立つとキッチンで何か飲み物を入れた。
「はい、ココア。落ち着くよ」
響は入れてくれたそのココアを受け取り、飲んだ。
「なんかホッとします。レナさんありがとう」
優しい味がじんわりと心に広がる感じがした。落ち着く
「あんなこと知ったら、そりゃあ驚くよね。拓也さんも、響がショック受けるの分かってたから辛かったろうね。でもあんたの願いを叶えたかった」
レナはチラリと、拓也の部屋を見た。拓也は軽くいびきをかいてグッスリ寝ている。
「私拓也さんのこと好きなんだ」
響はココアを飲みながら、レナの告白を聞いていた。そんなの分かってたよ。
「クールで優しくて、不器用でまっすぐで。気に入った人のためなら平気で体壊すくらい無理してさ。響のことも、本当に気に入ってて、どうにかしてあげたいんだよね、あの人」
響はココアを見ながら黙っていた。
「でも弟のことは知らなかったな。きっと、その事があるから、バンドしないんじゃないかな。
弟とやってたバンド以外あり得ないんじゃないかな。…スネアぶち破るのも…ホントはそういうことが、胸によぎるからなのかな」
響は前にスタジオで見た拓也の姿を思い出していた。
スネアを破って震えおののいていたのは、そのことが頭によぎるからなのかもしれない。
悲しそうな顔をしていたことが忘れられない。
「僕が叔父さんに会う願いが叶ったら、ちゃんと本当のことを知ったら、拓也さんの心も少し、救われるかもしれないですね」
レナは微笑んでうなづいた。
「きっとあの人自身も抜け出したくて、余計に響の力になりたいのかもしれないね。会えるといいね。
…でも響、あんたは、あんたのことだけ考えればいいよ。
拓也さんも私もみんなあんたを応援してるけど、誰かのためじゃなくていいの。まずは自分のために。拓也さんでも私のためでもなく」
響は顔を上げてレナを見た。
「みんなあんたのこと、好きなんだよ。響は自分では気づいてないけど、すごく周りの人を惹きつける力があるんだ。1人じゃないから」
響はいきなりそんなこと言われて、嬉しいような恥ずかしいような…下を向いて鼻をつまんで誤魔化した。
「ふふふ。それも、すきだよ。」
余計に恥ずかしくなることを言わないでくれ、と思いながら響は咳払いした。
「レナさん、ありがとう」
そして響は気になっていることを突っ込んだ。
「ところでレナさんは拓也さんと深い関係なんですか…?」
「まさかあ。ぜーんぜん相手にされてないよ。前に、ベッドに滑り込んで一緒に寝たこともあったのにさ。手も出してくれないの。拓也さんもしかしてゲイかなあ?」
唇を尖らせて聞いてくるレナが可愛くて、響は微笑んだ。
「さあ?分からないですけど…大事な人ほど、適当に扱いたくないっていうのも、あると思いますよ。レナさん可愛いですね」
響がそう言うとレナは真っ赤な顔になって、そっぽを向いた。
可愛いな。
僕だったら、この人を放っておかないんだけどな、と響は思った。
そして響たちはおやすみを言ってそれぞれの部屋に戻った。
響はレナのおかげで少し落ち着くことができて、そのあとすぐに眠りに落ちた。
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