ルイは愛妻家だとよく言われる。
家でも外でも常に妻を誉めているし、どんな時でもレディーファーストでエスコートしているし、会合に呼ばれればどこにでも妻を同伴した。
側から見ていても、ルイが妻の愛美(まなみ)を深く愛していることが分かった。
「愛美さん、今度会社の創設25周年パーティがあるんだ。一緒に行ってくれるよね?」
ルイはソファで並んで座る愛美の髪を撫でながら言う。
「あら、もちろんよ。もう25周年なのね?あなたが代表を始めてから20年かしら。時が経つのは早いものね。」
そう言って優しく微笑む愛美の髪にそっと頬を擦り寄せるルイ。
「…僕たちが初めて会ったのも20年前だったよね。あの時は君は、レイジさんの残した古民家で小さなカフェを営んでいた。…僕は客として、君と出会った」
「そうね。あの時あなたは、嬉しそうな優里ちゃんと一緒に来たのよね。彼女、見たこともないくらいキラキラ楽しそうだったわ」
2人はどちらからともなく、お互いの手を握った。
「あれから色々あったけど、僕は君と今こうしていられることを感謝してる。シュリのことも愛して一緒に育ててくれた」
「いいのよ。私もこうしてルイさんと一緒にいられて感謝してるの。大好きな優里ちゃんの子供を育てられたことは、私にとっても嬉しいことだったのよ」
ルイと愛美には子供がいなかった。
ずっとルイと前妻の優里の子供のシュリを一緒に育ててきたのだ。
正確には、ルイの子ではないのだけど。それはシュリには秘密だ。
「不思議よね。シュリは大人になるにつれてあなたにどんどん似てくる。血の繋がり以上の何かがあるのかしらね。毎日驚くことばかりよ」
「ふふ、そう?嬉しいな。シュリは優里ちゃんの大事な息子。そして血がつながらなくても僕の大事な息子。あなたとシュリと、家族になれてよかった」
ルイはそっとサングラスを外した。
真っ直ぐに愛美を見ると、愛美は夢見心地の様に頬を紅潮させてぼんやりとルイを見つめている。
「その目、いつ見ても素敵。」
「愛する君だけに見せる目だから。よく見て。この目に人は見惚れてしまうって、優里ちゃんに教えてもらったんだよ。やっぱりそう?どう思う?」
どう思う?なんて、すっかり愛美が吸い込まれそうになってるの分かってるくせに悪戯っぽくルイは顔を覗き込む。
「もうっ、意地悪ね。何回見ても抗えないわよ。初めて見た時と一緒」
まるで媚薬の様なその目に吸い込まれながら、愛美はルイの頬に手を触れる。
その潤んだ瞳が愛おしくて、ルイはキスをした。
愛美はゾクゾクと背中に電気が走る様な感覚になる。
やっぱりルイの目は綺麗で素敵だ。
「君にだけ見せる100%の目だよ。」
優里に教えられるまで無自覚に目の力を使っていたけど、ルイはコントロールが出来るようになった。
だから少し眼鏡を外して目を見せるくらいでは人をフリーズさせなくてすむようになったのだ。
ルイは愛美をヒョイっと抱き上げた。
「きゃっ、もう、なぁに?」
「ベッド行こ。」
悪戯っぽく、でも優しく、ルイは微笑みかけた。
愛美は一層頬を染めながら「もう」と言って恥ずかしげに目を伏せる。
ルイは優里が亡くなってから初めて「絶望」を知って、悲しみのどん底に落ちてしまった。自暴自棄になったりしたけれど、
行きつけの古民家カフェで働いていた愛美と優里の思い出を語り合い、ルイは心を救われたのだった。
それから2人は自然に仲を深めていった。愛美は長い付き合いの優里をとても大切に思っていたし、彼女を忘れられないルイの気持ちも大事にしてくれた。
たくさん失ったものもあるけど、愛美との結婚を決めた時、優里の分も妻と息子を愛そうとルイは心に誓ったのだった。
愛する人を胸に抱きながら、優里ちゃん、僕は今幸せだよ、とルイは思った。そして君のことも変わらずに愛していると。
全てを見透かしている様に愛美はルイの耳元でそっとつぶやく。
「大丈夫よ。あなたは大丈夫。それでいいの。愛してる」
この人の溢れ出る母性と愛情にいつも救われてるんだな。今日も明日も。
命ある限りこの人を守りたい。
ルイはそう思いながら、愛する妻と甘い夜を過ごしたのだった。
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