パパの背中

まだすばるが小学生の頃のお話。

リビングからピアノの音が聞こえてきた。

すばるはお絵描きをしていた手を止めると、部屋を出てリビングに向かった。

広いリビングにはグランドピアノが置いてある。

すばるはバレない様にそっと中を覗いた。

タクヤが優しいタッチでメロディを奏でている。

その姿を、うっとりとすばるは眺めた。

わたしのパパ。

いつも優しくてかっこいいわたしのパパ。

血はつながっていないけど、すばるを大事に育ててくれているパパ。

ママがいなくなったとき、見捨てることだって出来たはずなのに、タクヤはすばるを育てると言ってくれた。

まだ若いから、周りの人には随分反対もされたようだけど、タクヤの決心は固かった。

それは昔、自分自身が大切な人に見捨てられた経験があったからだ。

すばるはそっとタクヤの背中に近づいて、後ろから抱きついた。

「わっ!すばるか、びっくりした〜!驚かせようとしたの?」

タクヤの問いにすばるはえへっとイタズラっぽく笑った。

「ごめんねパパ。ねぇお願い、このまま何か歌って。こうやって聞くパパの歌が好きなの」

「んー?そっか。じゃあ何か歌おうか…」

タクヤはすばるの頭をポンポンと撫でると、鍵盤の上に長い指を乗せた。

「デスペラード。俺の思い出の曲だ。初めてルイと音楽をした時のね…」

素敵な前奏が始まる。タクヤの背中を通して聞くピアノは一層暖かく優しい。

Desperado, Why don't you come to your senses You've been out riding fences For so long now Oh you're a hard one I know that you got your reasons These things that are pleasing you Can hurt you somehow Don't you draw The Queen of Diamonds boy She'll beat you if she's able You know the Queen of Hearts is always your best bet Now it seems to me some fine things Have been laid upon your table But you only want the ones That you can't get Desperado, oh you ain't getting no youger Your pain and your hunger They're driving you home And freedom, oh freedom Well, that's just some people talking Your prison is walking Through this world all alone 

素敵なメロディと大好きなパパの声がすばるの体に流れ込んできて、なんて幸せなんだろうと思った。

すばるはまだ子供だけど、本当は少しだけわかってた。

この世で一番パパのことが好き。

それはきっと、パパとして、だけじゃなくて…

「…どうだった?素敵な曲だろ?」

歌い終わったタクヤに声をかけられてすばるはハッとする。
ものすごく素敵だった。わたしも弾ける様になりたいな。

そういうとタクヤは嬉しそうに微笑んで、教えてあげるよ、と笑った。

それからデスペラードを習って弾ける様になった。

いつもこの曲を弾くと、タクヤの背中で聴いたことを思い出す。





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