僕はタクヤさんの家で過ごさせてもらって、夜になって帰ることにした。
もう遅いんだから泊まっていけばいいのに、って言ってくれた。
でもダメなんだ。
僕は自分でもよく分からないけど、ずっと一緒にいると1人なりたくなってしまう。
嫌いなんじゃなくて、ただ、離れなきゃって思う。
それに、1人でいると一番ホッとする。
寂しくなるくせに。
都合のいいやつだなって自分でも思う。
タクヤさんはそれを分かってくれてるから、僕を無理に引き止めはしなかった。
「またいつでもおいで。待ってるからな」
タクヤさんはまた撫でてくれた。僕は自然と笑みが溢れた。
海辺に沿って歩いて帰ることにした。
…どこに?
僕は笑った。帰るところなんかない。いつも好きなところを寝床にして旅をしてるだけ。
僕がそうした。
僕が望んだ。
僕が決めた。
だからこれでいい。何にも不満じゃない。
でも、なぜだっけ?
僕はどうして、こう決めたんだろう…
どうして僕は大切なことを忘れてしまったんだろう?
こうすることで、確か…僕の、僕の、
大切な人が。
それ以上固く鍵がかかったように何も思い出せないのに、僕の目から涙が溢れた。
嗚咽が漏れた。
波の音が優しくかき消してくれる。
大切な人が居なくなってしまった時の胸が引き裂かれるような悲しみを思い出してしまって僕は泣いた。
それでも詳しいことは思い出せなかった。
僕は袖で後から後から流れ出す涙を拭いながら、砂浜を歩いた。
足がガタガタして、なんども転んだ。砂まみれになって立ち上がって歩いたけど、しまいには膝をついて座り込んでしまった。
涙と砂まみれの顔を一層ぐしゃぐしゃにして僕はいつまでも泣いた。子供みたいにいつまでも泣いた。
「救いようがない、って感じかな」
「僕」にバレないように、アオは木陰からそっと「僕」のことを見ていた。
「もういい加減、君は鍵を外す時が来たんだよ。我慢できてないし何も受け入れられてない君を、許す時が来たんじゃないかな。」
アオは笑った。
それから、砂浜で泣きじゃくる「僕」の邪魔をしないようにそっと消えた。
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