「私は力を少しだけ貸してもいい。君は友達だからね。多分私の力が今の君には1番必要だろう。今どうしたらいいか分かるかい?」
「…分からないよ」
僕はうなだれた。分からない。本当に分からない。
「君がまだ思い出してないものがあるだろ。君はそれを封印することで、運命の身代わりに執着してる。まだ、一人で救おうとしてる。分かる?」
アオがずいっと僕を覗き込む。僕は心臓が縮み上がるような気持ちになった。手放したくない。嫌だ。分かりたくない。
「君は何百回も苦しくて悲しい思いをしてきた。もう一人でそんな目に合わなくていい。普通なら耐えられないくらいのトラウマを抱えてもなお一人で守ろうとしてる。もうそんなことしなくていい。」
僕は耳を塞いだ。何も聞きたくない。
「一人で救えないことは君の存在価値を何も傷つけない。大丈夫。君がしてきたことは誰も知らなくても私が全部知ってる。思い出していいよ。君の…」
「うるさい!やめろ!」
「うるさくない!これを見て!みんな忘れたはずの君のこと、どこかで覚えてる。感じてる。思い出そうとしてる。」
アオは僕の脳内に映像を流した。
親友のすばると弟のシュリが、なにか一人足りない感じがする、と話してる。
『覚えてなくてごめんね、愛してる』
覚えてるはずないのに二人はそんなことを思ってる。
父さんもタクヤさんも、いつ行っても、僕のこと何も覚えてないのに優しくしてくれた。
そして、母さん。
また来てね、きっとよ。いつも去り際には大袈裟なくらい悲しそうにしてた。僕のこと覚えてないのに…
「この世界に君の存在を戻す理由が分かったね。じゃあ心の鍵を壊すよ。」
「ま、待って、壊すって、アオは一体なんなの?」
「私?…うはは、『破壊』、とでも言っておこうかなぁ?さあ、目を閉じて」
目の前がめちゃくちゃに眩しくなって行く。
「君の名前は『ナ…」
「ナギくん!!」
僕の好きな声が、久しく忘れていた僕の名前を呼ぶ。
「もう、ナギくんってば、呼んでるのにぼーっとして、気づかないんだから。どうしたの?具合でも悪いの?」
レナさんが僕の顔を覗き込み、その手で僕のおでこに触れた。
「熱はないみたい…、わっ!」
僕は彼女をぎゅっと抱きしめた。また会えた。元気なレナさん。
「急にどうしたのよぉ。泣いてるの?」
「ふふ、レナさんに会えて嬉しいなぁって思って。」
レナさんは何かを感じたみたいで、僕を抱きしめたあとハンカチで涙を拭いてくれた。
「今日はすばるの実家でパーティする日でしょ。そろそろ行こ」
レナさんは僕の手を取って歩き出した。
「今日なんのパーティだっけ?」
「何言ってるの、ナギくんの誕生日パーティでしょ!みんな楽しみに待ってるよ」
僕は驚いてポカンとしてしまった。
こんなことは一回も無かった。名前の封印を解いただけで、全てが変わり始めていた。
空想都市一番街
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