強い外の光にようやく目が慣れたころ、僕は最寄りの駅に着いた。
僕の生まれるずっと前からあった、高架の線路の駅。
切符売り場で僕は立ち止まった。
行き先は、海のある街。あの街の名前を案内板から探し出し、券売機にお金を入れる。思ったよりも遠い。
僕は切符を買うと改札に向かう。そこでは駅員さんが切符ハサミをカチカチ鳴らしながら待っている。
あれ、おかしいな、ここはとっくに自動改札機になったんじゃなかったっけ、と僕は不思議に思った。目の前がモヤがかかったように現実感が無い。
「お客さん、もう電車が来ますよ」
駅員さんが早く、というようにぼんやり突っ立っていた僕の切符に手を差し伸ばす。
切符が「パチン」と切られた音で僕はやっと我に返った。
「すいません、何番線ですか?」
「3番線です。急いで。これを逃したら次は5時間後です」
僕は青くなって、どうも!!と叫びながら、全力で走り出した。高架の階段は長い。なぜかエスカレーターは満員で走る隙間もないから、僕はカバンを抱えて一段飛ばしに駆け上がった。
息を切らせながらやっとホームに着くと、ドアの閉まるアナウンスがされているところだった。僕は1番近いドアに駆け込んで、何とか間に合うことが出来た。
ところが電車の中でもなかなか呼吸がおさまらない。僕はその場でかがみ込んで肩で息をする。心臓が痛い。いや、これは肺かな?痛みと苦しみが僕という存在の輪郭をはっきりさせる。
やっと落ち着いて顔をあげて席を見渡すと、あんなにエスカレーターに人がいたのにほとんど人が乗っていない。
不思議に思いながら、僕は長椅子の一番端に座った。
ああやっと、僕はあそこへ行くのだな。
そう思ったらじわじわと心の底から幸福感が湧き上がった。長旅になるけれどそんなのちっとも構わない。僕は会いたい人たちを思い浮かべ、カバンを抱き締めて人目もはばからず思い切りニヤニヤした。
電車はしばらく止まらずに走り続けた。
うとうととしていた時、隣の車両から車掌が現れた。
「切符を拝見」
僕は切符を見せると、車掌はじっと僕の顔を見て言った。
「お乗り換えにはご注意ください」
「乗り換え?この電車一本でいけるんじゃないの?」
「もちろん行けます。ただ、一度乗り換えのため停車します。その時に間違えてお降りにならないようお気をつけください。」
車掌の顔はどこかで見たような気がしたけど思い出せない。
「もし間違えたらどうなるの?」
何か不吉な予感がした僕は恐る恐る訪ねる。
「もうこちらの世界にはお戻りになれないでしょう」
車掌は軽く会釈すると他の客の方に行ってしまった。
こちらの世界に戻れない?
また視界がぼんやりとしていた。脳全部が煙に覆われているようだ。僕はとても曖昧にここに存在していた。もし間違えて下車してしまったら。
きっと跡形も残らず僕というものは誰の中からも消えてしまうのだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にか向かいの席に見覚えのある人が座っていた。
僕は驚いて顔を上げた。この人を知ってる。知ってるも何も、この人は。
「久しぶりだねすばるちゃん!今日電車に乗ってるって知って、会いにきちゃった!」
朗らかに、ニコニコしながら話しかけてきたのは、僕が姉のように慕っていた亡くなった同僚だった。
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