セナの路上ライブは、直近でその週の土曜日だった。
学校でバンド仲間にその話をしたらとても行きたがったけど、残念ながらバイトだったので、路上ライブは忍1人で行くことにした。
場所は川辺公園、18時から。
忍はその日18時ちょうどくらいに公園に行った。
セナの周りには、思いの外たくさんの人が集まっている。
男女入り乱れて年齢層も幅広い。
セナは座って弦のチューニングをしていた。それだけに集中しているようで、一言も言葉を発しない。
やがてチューニングが終わると、ストラップを肩にかけて立ち上がった。
白いTシャツにこの前見た古着のジーンズ。足元はブーツ。
ボサボサの天パの頭は湿気の多い今日はさらに天パ力(りょく)が増している。
セナは何も言わずに一呼吸すると、
Gを6弦から1弦にダウンストローク一回。その後、唐突に歌い出した。
忍は驚いた。
あの変人の、どこからこんなに綺麗で力強い言葉が出てくるのだろう。
曲は疾走感ある曲もあればスローバラードもあり、
それら全てを、セナは全身全霊で、明日死ぬくらいの気迫で歌っていた。
前に見た時のような人懐っこいようなバカのような表情は無く、
ギラギラと、まるで侍のようだ。
忍は吸い込まれるようにセナを見ていた。
身体中に鳥肌が立っているのを感じた。
セナは一度もMCをはさまないで10曲ほど歌った。
最後の曲を歌い終わると、
汗だくになったセナが、息を切らして真顔で言った。
「俺今日もここで歌ったんですけど、
本当にいつも吐きそうなくらい緊張してるんですけど、
やっぱ歌いたいじゃないですか、生きてるうちは。
歌わないと死んでるみたいだから、
皆さんもそうでしょ、死にたくないでしょ、あ、そういう言い方変かな、、
死んでるように生きたくないじゃないですか」
周りからは、敬愛の気持ちをこめた笑いがこぼれた。
みんなセナのこんな不器用で全力なところが好きなんだろう。
「だから俺は今日も生きられました。本当にありがとうございます。
また来てくれたら嬉しいし死ぬ気で歌います。あ、死にたくないのに死ぬ気っていうのも変な話ですけど、
生きるために死ぬ気で、、生きたいから歌います!」
セナは深々と頭を下げた。路上ライブは終了した。
客がセナに話しかけたり、セナが用意していたCDを買ったりしていた。
1時間くらいはセナは忙しく話をしたり(セナは一度話したら言葉をどんどん言うので時間がかかる)
頼まれたらサインをしたりしていた。
人がパラパラと帰ってしまうと、忍はセナに話しかけた。
「片岡さん。ライブ超よかったです」
セナは顔を上げて、忍を見るとものすごく嬉しそうな顔をした。
「あ、見に来てくれたんですね!よかった、今日は俺のどの調子も良くて、聞いてくれるなら今日がいいなって思ってて、とにかく嬉しいです」
忍はなんだか、セナの純粋さに気持ちが和んだ。
「名前はなんていうんですか?俺のことはセナでいいですよ!」
セナは屈託のない笑顔で楽しそうに聞いてくる。
「小田切忍です。僕のことも忍でいいですよ。」
「忍さん!よろしくお願いします!」
セナはゴツゴツした大きな手を忍に差し出した。忍はその手を取って握手した。
なぜかその時、忍は不思議な感覚がした。
ギターを弾くには少し太すぎる指も、大きい手のひらも、とても温かくて、包み込まれるような感じがした。このままずっと離したくないような…
「忍さん?」
「へ?あ、はい」
忍はハッと我に返って手を離した。
「このあと時間あったらラーメン食べに行きません?近くにうまいラーメン屋があるんですよ!今日は俺、奢りますから!」
ラーメン、と聞いて忍は腹が鳴った。
「はい、行きます!」
そして2人は豚骨ラーメンを食べて帰った。
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