忍はセナと出会ってから、自分の曲を作りたいと思うようになった。
今までコピーばかりしてきたから、オリジナルの曲は無かったのだ。
まだセナと会ったばかりの頃、一緒にラーメンを食べた時、セナにどうやって曲を作るのか聞いたことがある。
「セナさん、僕ギターをやってるんです。いつか自分の歌を作りたいんですけど、セナさんは、どうやって曲を作ってるんですか?」
「ああやっぱり!この前弦買ってたから、ギタリストなんだなって思ってました。コピー、楽しいですよね。
好きなバンドコピーするの。
俺もよくコピーしてました!今はアコギだけど昔はバンドやってて、ブルーハーツとか、RCサクセションとか、ジミヘンとか、えーと」
考えながらセナは、あ、違う違う、曲作りの話ですね、と本筋に戻ってきた。
「曲を作るときか……俺は、詩を書きます。紙に、思いついた色んな言葉をたくさん書いて、だんだん言いたいことを……作、じゃなくて…組み立てていくんです。
それで、メロディーをつけて」
忍はその話をじっと聴いていた。
「あ、この時に、好きな子とか、好きな場所とか、好きな小説とか、好きな絵とか、色んなことを考えながら、
街の雑踏の音とか、そういうので浮かんできた音を捕まえて歌にします。
そういう意味で、音楽作るのは、全部繋がってるんです。
飯食うのも歩くことも。」
忍は胸がドキドキしていた。なんて面白い話だろう。
「僕もいつか、そんな風に曲を作れるかな」
セナはその時子供みたいに目をキラキラさせて笑った。
「もちろん!
人の人生がみんな違うように、忍さんにしか作れない音楽があります。俺、いつか忍さんがオリジナルの曲を歌うの楽しみにしてますよ!」
あの時のワクワクした気持ち、ずっと忘れてない。
忍はセナがテストが終わるまでに曲を作って、聴かせたいと思っていた。
セナが忍に言った、曲を作るやり方を誠司にも話して聞かせた。
「、、俺、セナさんマジかっこいいと思うわ。俺らも頑張ろうぜ」
「うん!じゃあ、お互いオリジナル曲作ろうぜ!」
ということで2人はそれぞれ曲作りを始めた。
忍はセナが言ったように、思いつく色んな言葉をノートに書き出していった。
そして気づいたのは、語彙の少なさだった。
セナは言っていた。好きな人や好きな音楽や好きな小説、好きな絵。
忍には音楽以外どれも欠けていた。
改めて、全て繋がっている、というセナの言葉を噛み締めていた。
セナのテストが終わるまで時間がなかったし、忍はとりあえず出来ることとして、道を歩くことからインスピレーションを得ることにした。
セナは忙しいだろうから悪いと思ったけど、メールで読んでいる小説を聞くと
「今は寺山修司と宮沢賢治ですね!」
とのことで、忍は練習の合間に小説を読み始めた。
そこで小説を読む楽しさを、初めて知ったのであった。
言葉を知るごとに、忍は心が豊かになった気がした。
少しづつだけど、ノートに書き出す言葉も増えてきた。
そして歩くこと。
早く起きて家の近くを歩くと、それまで見落としてきた小さなことがたくさんあることに気づいた。
知ってるつもりで全然見てなかったんだ、と忍は思った。
そして、まずは詩が出来た。
「お前これ、超いいじゃん。こんな才能あったんだな」
誠司は素直に褒めた。
「才能ってほどでもないけど。セナさんの真似して色々やってみたよ。」
「ふぅん…お前さ、好きな人でもいんのか?」
「えっ?なんで?」
誠司はニンマリ笑いながら机に肘をついた。
「だってこれ、どうみてもラブソングじゃん。」
「別に。なんか作ったらそうなっただけだよ」
「ふーん」
誠司は真っ赤になってそっぽを向いた忍を見て、楽しそうに笑った。
忍は放課後から曲作りに入った。
まずはコードを決めてメロディを乗せていった。
Bメロが苦戦したが、サビは意外とスルリと出てきた。
この調子なら、セナがテスト期間を終えるまでに曲が出来上がりそうだった。
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