まだ空が白む前に、悠斗はふと目を覚ました。
ぼんやりした頭で、ここは拓也の家だと思い出す。
知らないベッドに寝ている自分が不思議だった。
窓からは街灯の明かりが見える。
悠斗は無意識にベッドから出て誘われるように窓の外を見た。
その光景に、ふと、悠斗は恐怖を感じた。
悠斗はハッとして反射的にカーテンを引いて外の景色を視界から消した。カーテンを握る手が震えていた。
思い出したくもないことが一瞬で思い出され、身体中を駆け巡った。
時々そういうことがあったけど、それは最近はなりを潜めていた。
悠斗はそれがまさか久しぶりに、よりによって拓也の家で出てしまったことに激しく動揺した。
なんとか気持ちを落ち着かせようとしたけれど、記憶が悠斗の中で駆け巡って離れてくれない。
涙が溢れてきた。怖い。嗚咽が漏れた。
手と体がガタガタ震えた。
悠斗は混乱した頭で、このままじゃ拓也にバレる、帰らなきゃ、と思った。
いつも人当たりが良くて明るい自分でいたかった。こんな姿絶対に知られたくない。
リビングの椅子にかけたままの着替えを取りに部屋を出た。
拓也を起こさないように嗚咽を押し殺してそっと着替えを取りたかったけれど、震える体がガタン、と椅子にぶつかってしまった。
その音で拓也が目覚めた。
「悠斗?」
部屋の中から呼ぶ声が聞こえた。
悠斗はビクッとしてリビングの入り口でへたり込んでしまった。
もうだめだ。何も言葉が出ない。
「おい、どうした」
部屋から出てきた拓也が、いつもと違う悠斗の様子を見て驚いて近寄ってきた。
「なんでもないです」
悠斗はやっと声を絞り出した。
震えをどうしても止められない。
「悠斗?」
何かから身を守るように震える悠斗に近寄って、拓也は肩に触れようとした。
悠斗はビクッと震えて拓也の手を振り払った。
拓也は目を丸くした。こんな悠斗は見たことがない。
「お前…」
「ごめんなさい、ち、ちょっと、変な夢見ただけですから、寝たら治るから、だ、大丈夫です…」
「全然大丈夫に見えねぇよ。とりあえず座りな。なんか今飲み物入れるからな」
と、拓也が無意識にもう一度肩に触れようとした時、悠斗はまた振り払おうとしたので、拓也はとっさにその手を取った。
ものすごい力が入って震えている。
怯えている。
尋常じゃない様子の悠斗を安心させようと、拓也はとっさに悠斗を抱きしめた。
悠斗の頭を胸に押し当て、背中を撫でながら、大丈夫、大丈夫、と繰り返し言い聞かせた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
悠斗は嗚咽しながら拓也にぎゅっとしがみついた。
拓也は悠斗が少し落ち着くまで、優しく悠斗の背中をさすっていた。
そのうち少しづつ悠斗は落ち着いて来たようだ。震えが止まってきた。
「なぁ、俺無神経だから、もしかしてなんか今日、やなこと思い出させちまったかな。そうだったら本当にごめんな。大丈夫だから。何も怖くないよ」
それはもちろん、今日居酒屋での会話を指していた。
空虚な顔をする時がある、という話をした時の悠斗が、拓也からしたら明らかに動揺していたからだ。
悠斗は少し落ち着いて、拓也の胸でうなづいた。
いつもの悠斗からは想像がつかない、怯えた子供のような姿。
「びっくりさせてごめんなさい…俺、時々こうなる時とかあるけど、拓也さんのせいじゃないんです。ごめんなさい」
ようやく顔を上げた悠斗は、綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。
その顔を見て、拓也の胸がドクンと鳴った。
悠斗のことは弟みたいに思ってきた。本当にそれだけだ。いかがわしい目で見たことなんて一度もない。
なのに、今腕の中で子供のように怯える悠斗に、どうしようもなく心が高鳴っている。
拓也は、思わず泣きじゃくる悠斗の額に自分の額をつけ、その目元にキスをした。
悠斗は一瞬驚いてぴくりと体を震わせた。
拓也は悠斗の涙で濡れたまぶたや頬にキスをしながら、悠斗を優しく撫でた。
悠斗は驚いたけれど、拓也にキスされるのを嫌だとは思わなかった。
それどころか、心がほぐれていくような安心感さえ感じた。
拓也は誰かと軽はずみな関係を持つ人間ではない。
なのに、こんな悠斗を目の前にしたら、抑えきれなかった。
キスしたい。
安心させたいのもあったけど、守ってやりたいのもあったけど、
泣いている悠斗があんまりにも綺麗だったから
唇にキスしたい。
そう思った時、ハッと拓也は我に帰り、悠斗から顔を離した。
「ごめん、つい、その、ムラムラした。ごめん悪かった」
キスされながボーッと夢見心地になっていた悠斗は、拓也を潤んだ瞳で見上げながら笑った。
「ムラムラしたって、拓也さんて本当ストレートですね」
拓也は顔を赤らめて目をそらした。
「ごめん、俺お前をそんな目で見てたわけじゃないんだよ、お前可愛いから…なんかそんなに泣いてたら、あー、何言ってもどんどん変なドツボにハマってくな」
拓也が頭をかきながら困って真っ赤になっている。
悠斗はその様子に、何故だかとても安心感を感じた。
「拓也さん、俺今すごい安心した。…あのよかったら、もう少ししてもらっても、いいですか?」
その言葉は悠斗からあまりにも自然に出てきて悠斗自身びっくりした。
「あ、うん…」
拓也は悠斗の頬に手を触れると、今度は唇にキスをして、悠斗を抱き寄せた。
Tシャツの洗剤の匂いと、体温で気化する汗。
拓也は慰めるように優しく深くキスをした。
「ん…ったくやさ…」
さっきみたいに顔に優しくキスをされると思っていたから、
急に深くキスをされて悠斗は驚いたけれど、すぐにとろけるような感覚に頭が真っ白になった。
「んん…たくやさん、なんか…俺、ん…」
「なに?」
キスをしながら悠斗が蕩けた眼差しで拓也を見上げた
「きもちい…」
拓也はゾクゾクとして一層深くキスをした。
悠人の顔や頭を包むその手は大きくて優しかった。
こんな風に誰かに優しく触られたことなんて一度も無かった。そしていつのまにか眠りについていた。
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