銀の子羊と、優しい獣⑨ ☆BL ※トラウマ表現あり

「でも今となっては、特に悲しいとかそういうの不思議とないんですよね。この跡消えないかなぁって思うくらいで」

悠斗は胸の火傷の跡を見ながら笑っているけど、時々見せるあの「空虚な目」をしていた。

「そっか。」

タバコにしては広い跡だ。かなり何度もされたのかもしれない。

「俺熱くなってきちゃった。もう出ますね」

「おう、俺も出よ」

2人は風呂から上がると麦茶を飲んで、拓也のベッドに寝転んだ。

大きめのセミダブルなので、男2人でも広くはないがまあまあ余裕がある。

悠斗には深い傷や闇があるのだろう。きっとこの前のも、さっきしてた時に出てたのも、それが関係している。

拓也はそう分かってきていた。

「拓也さん、引いてないですよね」

「引くわけないだろ。大丈夫だよ」

悠斗はホッとしたように微笑んだ。

「こういうこと言うと、メンヘラだとか言うやついるから。俺、そういう風思われたくないし。依存体質とか思われるのも嫌だし」

「悠斗は人に依存するタイプじゃないの、分かってるよ」

「へへ、よかった」

悠斗は嬉しそうに笑って、さっきの話の続きをポツリと話し出した。

「俺、前にも話ししましたけど、小学校入る前に相談所の人が来て、施設に入ったんです。母親もかなり精神的に弱っていて、養育は無理だろうってなったんだって。後で施設の人に聞きました。」

拓也はうなづきながら聞いていた。

「しばらくいたんですけど、ある時また家に戻されたんですよ。母親が再婚して、落ち着いたから、また一緒に暮らしたいって。新しい父も何度も面会に来て。一緒に住むことになった」

悠斗は今誰にも話ししたことがないことを話ししている。

拓也に借りたTシャツは拓也の洗濯洗剤の香りがして、なんだか肩を抱かれているような、そんな安心感を感じていた。

「…まあ、色々あって最後は施設入り直して、18になるまでいました。
別にシリアスにもなってないんです。俺にとって単なる事実だし、特に感慨もない。」

拓也は悠斗を見つめ、うなづくと、悠斗を抱き寄せた。

「勘違いすんな、お前をかわいそうとか思ってこうしてるわけじゃねぇからな。お前の悲しみはお前にしかわからないし、ただ」

拓也はくしゃっと悠斗の頭を撫でた。

「シリアスじゃねぇってのは嘘だな。また怯えてる」

話をしながら震えてきていることは自分でも気づいていた。

「ハハ…やっぱダメですね。大丈夫だと思ったんですけど。話ししてたら怖くなってきちゃった。ごめんなさい。」

「謝んなくていいよ。そんなに怯えてんだ、何かあったんだろ。言いたくないならいいけど、言えるなら言っていいんだよ」

拓也は、大丈夫だから、というように悠斗の背中を撫でていた。

「……」

悠斗は声を出すまで時間がかかった。胸に込み上げてきて、声を出そうと思っても出せなかった。

「誰にも話ししたことないんです」

やがて悠斗は小さく声に出した。

「俺を軽蔑するかもしれないけど」

「しないよ」

拓也は優しく悠斗を抱いていた。

「……俺は義父を刺したんです。殺そうとして。」

拓也は悠斗を抱いたまま黙って聞いていた。

「義父は、最初は優しかった。母親も落ち着いてるように見えた。俺たちはちゃんと家族として仲良くやってたんだ。でも…ある時義父が急に、変わった」

ドクドクと、悠斗の鼓動が聞こえた。

「俺は義父を信頼してた。毎日、夜、窓の外に帰ってくる義父の姿が見えると手を振ってた。あの日もそうだった。母はその日飲みに行ってていなかった」

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