銀の子羊と、優しい獣・ファイテングレナ② ☆BL

「前にも」って、どういう意味だろ。

別に、どこかで誰かと会話してて、そんな話になっただけだろうけど。

でも拓也さん、外で誰かにそんな話する?料理の話なんてしてるの聞いたことないし…

でもそれは私が知らないだけかもしれないけど。

…もしかして。

レナは直感的に、この部屋で誰かに食べさせたのかな?と思った。

「ねぇ拓也さん、意外だって誰に言われたの?」

「え?悠斗だよ」

拓也はなんでもないことのように言った。

「悠斗この部屋に来たんだ」

「ああ、あいつ遅番多かったし。たまに来てたよ。」

「なんだそっかあ。」

心配して損した。

レナはホッと胸をなでおろした。

「なに、それがどうかした?」

「ううん、なんでもない」

拓也は女心に関しては本当に本当に鈍感だったので、レナが何を思っているのかなんて想像つくはずもなく、ふうん、と返事をするとシャワーを浴びに行った。

私の思い過ごしか。
でも、拓也さんに女ができたら悲しいなぁ。悔しくて泣くかも。

なんて思いながら何気なく拓也の部屋を覗くと、そこにはレナにとって衝撃的なものがあった。

拓也の枕のとなりに、枕みたいに畳んだバスタオルがある。

え??


ちょちょちょ、あれまさかまくら代わりじゃないよね?ただのタオルだよね?

でもなんであんなとこにあんの?

レナはそっと近寄って見てみた。

真ん中へこんでる。これ、誰か寝たあとだ。

じっと観察してみると、そこには銀髪の髪が付着していた。拓也のじゃない。

銀髪?…悠斗?

いやいやいや、とレナは首を振った。

そんな訳ないし。なんで拓也さんと一緒に寝るのよ。

そしたら、ここに寝たのは銀髪の女だ。

短いから、ショートヘアの銀髪の女。

拓也の音楽関係の交友の中にはきっとそんな人間もいるだろう。

科捜研みたいにこの毛髪をDNA鑑定したいところだけどそんなことできるはずもない。

レナは心の中が混乱して泣いてしまいそうだった。拓也が誰かのものになってしまう。

「おーいレナ、何してんの?」

シャワーから出た拓也が声をかけた。

「わっ!な、なんでもないよ、小説なにか借りようと思って。遠藤周作借りるね」

「おう、『沈黙』か?ヘビーなチョイスだな。麦茶飲むだろー?」

「あ、うんありがと。」

レナは落ち着こうと一呼吸してリビングに戻った。

「ねえ拓也さん、あのさ…」

レナは銀髪の女のことをどうやって探ろうか、頭をフル回転させていた。

ストレートに聞くのは、怖い。

だから、遠回しに。

「あのさ、友達が…写真撮ってて…そうそう、被写体探してるの。女の人で、見た目がインパクトある人がいいんだって。例えば髪が、銀髪とか。
かっこいい人。拓也さんの知り合いにいない?」

「インパクトのある女?んー誰かいるかな」

「きっといるでしょ、あ、そうショートカットの人の方がいいみたい」

レナはいつも愛想がないだけあって、何事も無いようにうまく振舞えている。このまま情報を引きずり出せば…

「いねぇな。ロングの紫の髪のやつはいるけど、ショートカットはおとなしい感じのやつばっかりだし」

え?いないわけがない。レナはさらに頭を回転させた。

「音楽関係の人じゃなくたっていいんだよ」

「そう言われてもなあ。俺音楽関係の知り合いばっかりだし、他にも特にいないなぁ」

「あれ、銀髪の人、いなかったっけ?なんか前にどこかで見たような気がするんだけど。拓也さんの身近にいない?」

思い切ってかなり突っ込んだ探りをいれてみた。

「そんな奴いねぇよ?お前の勘違いだろ。他に考えてるけどピンとくるやついないなぁ。悪いけど」


いないっ!


拓也は彼女のことを隠しているのだ、とレナは思った。

「銀髪のショートって言ったら、悠斗しか出てこないな。あいつでいいんじゃん?綺麗だし。…って違うか」

「悠斗は男でしょ。いくら綺麗でも男なんだし違うよ」

だよなーと言って、拓也は麦茶を飲んだ。

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