「前にも」って、どういう意味だろ。
別に、どこかで誰かと会話してて、そんな話になっただけだろうけど。
でも拓也さん、外で誰かにそんな話する?料理の話なんてしてるの聞いたことないし…
でもそれは私が知らないだけかもしれないけど。
…もしかして。
レナは直感的に、この部屋で誰かに食べさせたのかな?と思った。
「ねぇ拓也さん、意外だって誰に言われたの?」
「え?悠斗だよ」
拓也はなんでもないことのように言った。
「悠斗この部屋に来たんだ」
「ああ、あいつ遅番多かったし。たまに来てたよ。」
「なんだそっかあ。」
心配して損した。
レナはホッと胸をなでおろした。
「なに、それがどうかした?」
「ううん、なんでもない」
拓也は女心に関しては本当に本当に鈍感だったので、レナが何を思っているのかなんて想像つくはずもなく、ふうん、と返事をするとシャワーを浴びに行った。
私の思い過ごしか。
でも、拓也さんに女ができたら悲しいなぁ。悔しくて泣くかも。
なんて思いながら何気なく拓也の部屋を覗くと、そこにはレナにとって衝撃的なものがあった。
拓也の枕のとなりに、枕みたいに畳んだバスタオルがある。
え??
ちょちょちょ、あれまさかまくら代わりじゃないよね?ただのタオルだよね?
でもなんであんなとこにあんの?
レナはそっと近寄って見てみた。
真ん中へこんでる。これ、誰か寝たあとだ。
じっと観察してみると、そこには銀髪の髪が付着していた。拓也のじゃない。
銀髪?…悠斗?
いやいやいや、とレナは首を振った。
そんな訳ないし。なんで拓也さんと一緒に寝るのよ。
そしたら、ここに寝たのは銀髪の女だ。
短いから、ショートヘアの銀髪の女。
拓也の音楽関係の交友の中にはきっとそんな人間もいるだろう。
科捜研みたいにこの毛髪をDNA鑑定したいところだけどそんなことできるはずもない。
レナは心の中が混乱して泣いてしまいそうだった。拓也が誰かのものになってしまう。
「おーいレナ、何してんの?」
シャワーから出た拓也が声をかけた。
「わっ!な、なんでもないよ、小説なにか借りようと思って。遠藤周作借りるね」
「おう、『沈黙』か?ヘビーなチョイスだな。麦茶飲むだろー?」
「あ、うんありがと。」
レナは落ち着こうと一呼吸してリビングに戻った。
「ねえ拓也さん、あのさ…」
レナは銀髪の女のことをどうやって探ろうか、頭をフル回転させていた。
ストレートに聞くのは、怖い。
だから、遠回しに。
「あのさ、友達が…写真撮ってて…そうそう、被写体探してるの。女の人で、見た目がインパクトある人がいいんだって。例えば髪が、銀髪とか。
かっこいい人。拓也さんの知り合いにいない?」
「インパクトのある女?んー誰かいるかな」
「きっといるでしょ、あ、そうショートカットの人の方がいいみたい」
レナはいつも愛想がないだけあって、何事も無いようにうまく振舞えている。このまま情報を引きずり出せば…
「いねぇな。ロングの紫の髪のやつはいるけど、ショートカットはおとなしい感じのやつばっかりだし」
え?いないわけがない。レナはさらに頭を回転させた。
「音楽関係の人じゃなくたっていいんだよ」
「そう言われてもなあ。俺音楽関係の知り合いばっかりだし、他にも特にいないなぁ」
「あれ、銀髪の人、いなかったっけ?なんか前にどこかで見たような気がするんだけど。拓也さんの身近にいない?」
思い切ってかなり突っ込んだ探りをいれてみた。
「そんな奴いねぇよ?お前の勘違いだろ。他に考えてるけどピンとくるやついないなぁ。悪いけど」
いないっ!
拓也は彼女のことを隠しているのだ、とレナは思った。
「銀髪のショートって言ったら、悠斗しか出てこないな。あいつでいいんじゃん?綺麗だし。…って違うか」
「悠斗は男でしょ。いくら綺麗でも男なんだし違うよ」
だよなーと言って、拓也は麦茶を飲んだ。
空想都市一番街
このサイトは管理人「すばる」の空想の世界です。 一次創作のBL、男女のお話、イラスト、漫画などを投稿しています。 どうぞゆっくりしていってくださいな。
0コメント