セナは夢の中で佇んでいると、見たことのある人影を見つけた。
「お前は、あの時の悪魔!」
「悪魔?ハハハ、そうかもね。まあ、ある意味では本当に…。
ま、それはいいとして。今日は君に、お詫びしにきたんだ。」
アオはバツが悪そうに頭をかいた。
「私はすぐ君たちの目線を忘れちゃうから。私の言い方が悪くて君を傷つけたって、友人に叱られてね。だから、罪滅ぼしに、ちゃんと丁寧に君に話をしに来たんだ。」
「話…?忘れてしまえってまた言いに来たの?」
セナはまだ警戒している。
「違うよ。私は大切なことを言い忘れてたんだ。君たちは、大きな木の葉っぱだってこと。一人一人が、葉っぱ一枚一枚なんだ。」
セナは不思議そうな顔をして首を傾げだ。
「死んでは葉っぱは落ち、土に還り、養分となり木に吸い上げられ、
そしてまた違う場所で芽吹く。
君たちはそうやって繰り返し繰り返し、世界を違う場所から見てる。そういう存在だってこと、まずは分かったかな?」
「あ…うん。…本当にそうなの?」
突然のスケールの大きな話に驚きながらも、セナは引き込まれ始めている。
「本当さ」
夢の中のトウモロコシ畑に風が吹いた。
ざあっ…と葉が音を鳴らす。
「だから僕らはお互いを忘れても、自分のことさえ忘れても、みんなちゃんと繋がってる。みんなで一つの木だからだ。
忘れるなんて小さな事で、引き裂けないほど強い絆なんだよ。
君が大切に愛した子も、きちんと君と繋がってる。だから、大丈夫だって、そう言いたかった。ごめんよ。」
セナは風で乱れた天パをかきあげて泣きそうな目をアオに向けた。
「忘れても平気って、そういう事だったんだね」
「うん。だけど、私はいつも言葉がたらなくて。君を傷つけるつもりじゃなかったんだ。ごめんよ。
思い出を大切に、今を生きて。
君は今愛する人と生きるんだよ」
そう言うとアオは消えた。
セナは呆然と美しい夜のトウモロコシ畑に佇んだ。
ユイちゃんとも、亡くなった両親や兄貴とも、俺は繋がってるのか。同じ木の葉として。
セナはそう思いながら手のひらを見た。無数の見えない光の筋が、ここに繋がっている気がした。
「セナさん?」
夜、一緒に寝ている忍をセナは抱き寄せた。
「ごめん。起こしちゃった」
「いいよ。どうしたの急に」
「…いい夢を見たんだ。思い出を大切に、今愛する人と生きろって」
セナはとてもホッとした様な、安堵の表情を浮かべている。
そんなセナの様子に忍も嬉しくなって、セナの胸に顔を擦り寄せた。
「俺、忍さんを愛してるよ。」
セナが真っ直ぐにそう言った。
「僕もセナさんを愛してる」
そうして2人はとある夜更けに、幸せな時を過ごしたのだった。
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