すばるはシェアハウスに引っ越した。
どうやら他の居住者は入れ違いに引っ越していったようで、住んでいるのはすばるとシュリだけだった。
まだ新しい建物だ。中も綺麗だし、すばるは気に入ってのびのびと過ごした。
今はここから通う大学生活も楽しんでいるようだ。
シュリはそんなすばるの様子を見ていた。
ここへ来てからすばるはタクヤへの連絡もとても少ないし、シュリと話していても話題に出すこともあまりない。
べったりだったすばるの変わりように驚いていた。
彼氏ができたようでもないし、きっと意識してタクヤと離れようとしているのだろう。
叶わぬ恋なのだから。
何か他のものに打ち込もうとしているすばるは健気に見えた。
タクヤには女でもできたかなぁ。
シュリは思った。
タクヤはまだ若くてスポーツ万能で素敵な声のボーカリスト。
彼女ができたって当たり前。今までいない方がおかしかったのだ。
2人はそれぞれ、あるべき場所でお互いに落ち着くのかな。
2人とも幸せになってくれればいい。
そんなことを考えていたら、リビングルームにすばるがやってきた。
「あ、シュリちょうどよかった!友達のお家でマフィン作ってきたの!食べて!」
すばるはニコニコと嬉しそうだ。最近仲良くなったレナちゃんの家でよく一緒にお菓子を作って帰ってくる。
「やったね、食べる!」
甘い匂いに吸い寄せられるようにシュリはソファに座った。
すばるがお茶を入れて、焼き立てマフィンを出してくれた。
「美味しい!オレンジピールが入ってるんだね。すばるお菓子作りどんどん上手になるじゃん」
褒められてすばるはえへへ…とはにかんでいる。
「今度のバレンタイン、渡そうと思ってるんだ」
「え?誰に?」
「秘密〜!」
「…す、好きな人できたんだ。アハハ、タクヤじゃないでしょ?」
シュリがうろたえて突っ込むと、すばるは一瞬笑顔のまま固まった。
(あ、やば、地雷踏んだか)
とシュリも固まっていると、
「アハハ!そんなわけないじゃん!!パパにも送るけど、パパは義理だよっ。パパなんだから。
私、好きな人出来たよ。でもそれはまだ秘密。お茶もう一杯いれよっか?」
「あ、うん」
すばるの発言に、状況は確実に変わったんだとシュリは思った。
そして、好きな人…
「ねえ、すばる」
「なぁに?」
ティーカップを手に振り返る緩いウェーブのロングヘア。
ヘーゼルナッツみたいな色の瞳。
子供の頃とは違う、グラマラスな、胸…
シュリは何見てんだよ俺、と頭を振った。
「その…そ、そいつが羨ましいな!すばるのお菓子たくさん食べられるんだろ。俺にも…義理、くれる?」
すばるはニコっと笑って「もちろーん!」と言いながらソファに戻ってきた。
「当たり前じゃん。私たち、親友なんだからさ」
うんそうだよな。
分かってるよ。
「ありがとな。楽しみだよ」
シュリは笑って2杯目のお茶を飲んだ。
タクヤを諦めるなら、本当なら、他の誰かには渡したくない。
でも人の心を自分の好きなように出来るわけもなく。
シュリは自分がピアノでカバーして弾き語る恋愛ものの歌みたいに、切ない気持ちになったのだった。
誰なのか気になって、きっと今夜は眠れない。
せめて自分を好きになってもらえるように、積極的になれたらな…とシュリは途方に暮れた。
空想都市一番街
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