Heart of Gold ⑧

翌朝の明け方、玄関からカン、カン、と音がして響は目が覚めた。

キーホルダーのチャラチャラした音も聞こえるし、拓也が鍵を鍵穴に刺そうとしてうまく刺せないようだ。

響が開けに行こうかと思った時、ようやく鍵が刺さったのか、ガチャリと音がして玄関のドアが開いた。

ドサッと玄関に座って、ブーツを雑に脱いで放るような音がした。

ふらふらした様子で何度も壁にぶつかったり、CDの山が崩れる音がしたので、響は様子を見に行った。

「橋沼さん、大丈夫すか?」

「おう響。ちょっと飲みが長引いてな、結構酔った。」

少しろれつが回っていない様子で答えた。

「悪いけど水くれるか?俺着替えるから」

拓也は着ていたシャツを脱いでメタTを着ると、リビングの椅子に座った。

響は冷蔵庫の中のミネラルウォーターを差し出した。

「お前に情報もってきたぜ。武内さんの情報。」

拓也はミネラルウォーターをグビグビと飲み干した。

「武内さんの?」

響はリビングの椅子から立ち上がって身を乗り出した。

「そう。俺の友達でCD屋やってるアツシに聞いたんだが、インディーズアルバム出したアオハルってバンドがいるんだけどな」

「それが、どうしたんすか??」

「そいつらの、プロデューサーなんだとよ。武内廣治が」

「えっ!!マジすか!!叔父さんが?!」

響は驚いて拓也の腕を掴んでさらに前のめりになった。

拓也は少し笑った。

「ふふ、そうだよ、お前の叔父さん。なんだかそうやって衝動的になってる時の顔も、似てるよな」

拓也はポンポンと響の肩を叩いた。

「ごめん、俺けっこう飲んで、もう起きてられねーや…また明日なぁ」

拓也はふらりと立ち上がると、スキニーパンツのまんまでベッドに倒れこんで、すぐに寝息をたてて寝てしまった。

拓也には叔父のことも詳しく話をしていた。子供の頃に会ったきりだということも、なにもかも。

(アオハルか…。)

どんなバンドだろう。響は一気に叔父に近づいたことに、興奮してしばらくリビングで立ち尽くしていた。

その日は朝10時からスタジオのバイトだったので、タクヤが眠った後響も少し眠り、
コンビニで買ってきたハムサンドを食べて スタジオに向かった。


スタジオにはもうレナが来ていて、店の掃除をしていた。

「おはようございます、すいません僕も早く来ればよかった。」

「いいよ。私が早く来すぎただけだから。掃除する場所と、今日はパソコンのこと教えるから。」

レナに掃除のことを教えてもらっていると、穴の空いたスネアが受付に置かれているのに気づいた。

「これ、捨てるやつですか?」

「ううん、また張り替えると思うよ拓也さんが。自分でやったんだし。時々あるんだ。誰もいない時に1人でドラム叩いてて、スネアブチ破るの。」

(え?スネアってぶち破れるんだ…どんだけ叩けば破れるんだよ…)

と響は半ば驚きと呆れたような気持ちで破れたスネアを見ていた。

「ところでレナさん、アオハルってバンド知ってます?」

早速レナにリサーチをかける響。

「アオハル?さぁ、聞いたことないけど。それがどうしたの」

「インディーズでCD出してるらしくて、プロデューサーは武内廣治って人で。どんな音楽かなって興味あったんです」

レナは、そう、と言ったまま淡々と仕事を教えた。

その日は何組かスタジオに入る人達がいて、何だかんだ忙しくて時間があっという間に過ぎた。

そしてそろそろ悠斗が来て交代する時間になった時、レナが、ちょっと、と響を呼んだ。

「インディーズの店行ったことないでしょ?CD買いたいなら教えるよ。」

響はレナの意外な言葉に驚きつつ、是非お願いします、と答えた。

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