店を出ると、レナは響を近くの馴染みのカレー屋に連れて行った。
ナチュラルな木の内装の店内は、所々にインド風な置物や飾り付けがしてある。
二人はターメリックライスとチキンカレーを注文した。
「ねぇ響。なんで武内廣治を探してるの?」
注文が終わるとレナは単刀直入に言った。
響は探してるとは言っていないのに、レナは感づいたようだ。
「僕はただ、武内廣治さんの音楽聴いてみたいと思っただけで…」
「別に隠さなくてもいいのに。拓也さんがアンタを連れてきたのも、そういう理由なんじゃない?私らは音楽好きな高校生を連れてくってだけしか聞いてないけど。」
運ばれてきたラッシーを飲みながらレナはそっぽを向いている。
「私にも何か手伝えることがあるかと思ってさ」
「えっ」
そっぽを向いた頬がほんのり赤い。
長くて黒いまつ毛が、ツンと伏せられた目の周りを華やかに縁取っている。
「響が話したくないならもういい。聞いてごめんね」
「いや」
と言った時、カレーが運ばれてきた。
話が一旦途切れ、二人はなんとなく気まずい空気でカレーを食べた。
「美味しいでしょ?ここのカレー」
響がどう話しかけようかまごついていると、先にレナが喋った。
「母さんのカレーしか食べたことないから、こんなカレーあるなんて知らなかったです。うまいです。」
「ふふっなにそれ。やっぱりまだかわいいね」
レナはあのえくぼのある可愛らしい顔で笑った。
響はとても子供っぽいことを言ったと思って恥ずかしくなって、照れ笑いをこらえながら下を向いて鼻をつまんだ。
「あのそれより…おじ…武内さんのことなんですけど」
響は照れ隠しの勢いに乗せてさっきの話を切り出した。
「僕の叔父なんです。ずっと音信不通で、会いたくて探してて。拓也さんが東京で会ったことあるって言うから、ここへ来たんです。会えるかもしれないって思って」
響の話を、レナは食べる手を止めて聞いていた。
「なんでそれを隠そうとしていたの?」
「隠すつもりはなかったんですけど、あの人が僕の叔父だって、あんまり言わない方がいいのかなって…もしかしたら、叔父さんは僕の存在を知られたくないかもしれないし。仕事がやりにくくなるかもしれないし…って思って。」
初めはそんなこと考えていなかったのだけど、響は東京に来てからなんとなくそう思うようになっていた。
叔父が働くこの土地に来て、甥が探してるなんて言いふらすのは気が引けたのだ。
「そっか。響は武内さんのことがホントに好きなんだね。仕事のことまで気遣って、えらいよ。」
レナは優しげな表情で言った。
響はなんだか、涙が出そうな気持ちになって、黙った。
「私に出来ることは協力する。アンタが、早く武内さんに会えるようにね。仲間にも声かけてみるよ。」
「ありがとうございます。」
カレーはレナが奢ってくれた。
駅までの道を二人は横に並んで歩いた。
すっかり夜になっていて、空には明るい月が出ている。
「私京王線だから、ここで。響は新宿方面乗って、分からなかったら新宿駅で池袋までの行き方聞きな。拓也さんちまでの行き方はわかるよね?」
「はい。大丈夫です」
じゃあ、と行きかけたレナの腕を響は掴んだ。自分でもびっくりするくらい無意識に。
「今日は、ありがとうございました。叔父さんの音楽に会えたのはレナさんのお陰です。また、明日」
レナは突然のことにびっくりしながらも、微笑んだ。
「響って結構大胆だね。また明日。」
じゃあ、と言ってレナは帰っていった。
響は手に入れたアオハルのCDを持って小田急線に乗り、案の定新宿で迷いながら、なんとか拓也の家に帰った。
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