Heart of Gold ⑩

店を出ると、レナは響を近くの馴染みのカレー屋に連れて行った。

ナチュラルな木の内装の店内は、所々にインド風な置物や飾り付けがしてある。

二人はターメリックライスとチキンカレーを注文した。

「ねぇ響。なんで武内廣治を探してるの?」

注文が終わるとレナは単刀直入に言った。

響は探してるとは言っていないのに、レナは感づいたようだ。

「僕はただ、武内廣治さんの音楽聴いてみたいと思っただけで…」

「別に隠さなくてもいいのに。拓也さんがアンタを連れてきたのも、そういう理由なんじゃない?私らは音楽好きな高校生を連れてくってだけしか聞いてないけど。」

運ばれてきたラッシーを飲みながらレナはそっぽを向いている。

「私にも何か手伝えることがあるかと思ってさ」

「えっ」

そっぽを向いた頬がほんのり赤い。

長くて黒いまつ毛が、ツンと伏せられた目の周りを華やかに縁取っている。

「響が話したくないならもういい。聞いてごめんね」

「いや」

と言った時、カレーが運ばれてきた。

話が一旦途切れ、二人はなんとなく気まずい空気でカレーを食べた。

「美味しいでしょ?ここのカレー」

響がどう話しかけようかまごついていると、先にレナが喋った。

「母さんのカレーしか食べたことないから、こんなカレーあるなんて知らなかったです。うまいです。」

「ふふっなにそれ。やっぱりまだかわいいね」

レナはあのえくぼのある可愛らしい顔で笑った。

響はとても子供っぽいことを言ったと思って恥ずかしくなって、照れ笑いをこらえながら下を向いて鼻をつまんだ。

「あのそれより…おじ…武内さんのことなんですけど」

響は照れ隠しの勢いに乗せてさっきの話を切り出した。

「僕の叔父なんです。ずっと音信不通で、会いたくて探してて。拓也さんが東京で会ったことあるって言うから、ここへ来たんです。会えるかもしれないって思って」

響の話を、レナは食べる手を止めて聞いていた。

「なんでそれを隠そうとしていたの?」

「隠すつもりはなかったんですけど、あの人が僕の叔父だって、あんまり言わない方がいいのかなって…もしかしたら、叔父さんは僕の存在を知られたくないかもしれないし。仕事がやりにくくなるかもしれないし…って思って。」

初めはそんなこと考えていなかったのだけど、響は東京に来てからなんとなくそう思うようになっていた。

叔父が働くこの土地に来て、甥が探してるなんて言いふらすのは気が引けたのだ。

「そっか。響は武内さんのことがホントに好きなんだね。仕事のことまで気遣って、えらいよ。」

レナは優しげな表情で言った。

響はなんだか、涙が出そうな気持ちになって、黙った。

「私に出来ることは協力する。アンタが、早く武内さんに会えるようにね。仲間にも声かけてみるよ。」

「ありがとうございます。」

カレーはレナが奢ってくれた。

駅までの道を二人は横に並んで歩いた。

すっかり夜になっていて、空には明るい月が出ている。

「私京王線だから、ここで。響は新宿方面乗って、分からなかったら新宿駅で池袋までの行き方聞きな。拓也さんちまでの行き方はわかるよね?」

「はい。大丈夫です」

じゃあ、と行きかけたレナの腕を響は掴んだ。自分でもびっくりするくらい無意識に。

「今日は、ありがとうございました。叔父さんの音楽に会えたのはレナさんのお陰です。また、明日」

レナは突然のことにびっくりしながらも、微笑んだ。

「響って結構大胆だね。また明日。」

じゃあ、と言ってレナは帰っていった。

響は手に入れたアオハルのCDを持って小田急線に乗り、案の定新宿で迷いながら、なんとか拓也の家に帰った。

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