「おーい、響、夕飯だぞー…取り込み中か」
今日は涼しく風もあるので、
響はベッドに寝転がりながら、イヤホンでアオハルを聞いていた。
CDのブックレットに載ってる歌詞をじっくりと読む。作詞作曲は殆どが武内廣治だとアツシが言っていた。
アオハルのメンバー3人のビジュアルは動いていたりデジタル処理されていたりではっきりと分からない。
ネットで探してみたけれど、アオハルに関しての情報は少なく、画像もほとんどなかった。
こうしてずっと聞いているとたしかに、叔父の作る音楽はこのバンドにとても合っているように響には思えた。
スリーピースバンドのソリッド感、
それにハイトーンボイス。
アオハルに合ってるのか、それと
もアオハルに「合わせた」のか、それはわからないけれど。
とにかく凄くいい。
ブックレットを持っていた手をベッドに下ろしてため息をついた時、拓也が部屋の入り口に寄りかかって響を見ているのに気づいてイヤホンを外した。
「飯だよ。今日は唐揚げ作ったぞ。」
「ありがとうございます、手伝わなくてすいません」
「いいよ。ほら、食おうぜ。飯は1人より2人の方が美味い」
二人はリビングのテーブルに座った。
拓也が千切りキャベツにレモンを添えた山盛りの唐揚げの皿を運んできた。
さらにご飯と味噌汁も入れて、テーブルに並べた。
タクヤはかなり自炊するし、料理がうまい。
そしてテーブルにランチョンマットをちゃんと敷いたりする。
「いただきます!」
「いただきます!」
一緒に食べるときは声を合わせてこう言うのがなんとなく決まりになっていた。
「うまぁ!橋沼さん、唐揚げ超うまいっす」
「そうだろ?いっぱい食べろよ。お前は育ち盛りだからな。俺も作り甲斐があるよ」
拓也は嬉しそうな顔をしている。
「レナは俺と時間が合わなくて外で食べることが多いからな。人と一緒っていいよな」
響はなんとなくだけど、拓也は、誰かと一緒いたことがあるんだろうと思った。
1人の寂しさを知っているということは、誰かといる幸せを知っている、ということなのではないだろうか。
それにこのマンションには、部屋が2つある。
拓也以外に、レナじゃない誰かがいた、そんな感じがする。
「アオハルはどうだ、いいか?俺はまだ聴いてないから、ここのプレイヤーで聞こうぜ。」
響は促されて席を立ち、CD持ってきてプレイヤーに入れて、アオハルをかけた。
拓也は無言でご飯を食べていた。響も無言で唐揚げを頬張っていた。
唐揚げを響が食べ終わる頃、タクヤは口を開いた。
「すげえいいな。武内さんの他の音源も聞いたことあるけど、なんかこれとは違うんだよな。こいつらを通して自分の内面をぶちまけてるような感じだな」
「内面を、ですか。叔父さんは他にどんな曲を作ってるんですか?」
叔父はクレジットに乗せていないだけあって、ネットで検索しても情報がほとんどない。
「ゲーム音楽とか、あとはバンドのプロデューサーなんかやってるな。だけどどれも頼まれて、そのバンドの良さを生かすサポート役だ。けどアオハルは違うんだろ?武内さん直々にお声掛けあったらしいじゃん」
「そうらしいっすね。やっぱりアオハルが叔父さんの表現したいことに合ってたってことなんすかね…」
響は味噌汁を飲み干した。ちょうどいい濃さだ。
タクヤはなぜかチャーハンを作るときだけ味覚がおかしくなるらしい。
「そういうことかもな。お前週末のライブ行くんだろ?俺も行くよ。アオハルと話せるように取り持ってやるから。」
「ありがとうございます!」
響は嬉しくて大きな声になってしまって、なんだか恥ずかしくなって下を向いて鼻をつまんだ。
「お前恥ずかしいときよくそれやるよな。武内さんもそういやそんなことしてたな。血ってやつか。」
タクヤは笑って片付けを始めた。
響は昔母が、響と父と叔父は同じ癖をすると言っていたことを思い出していた。
あの時見た叔父の顔を響は思い出す。顔、少し似ているかもしれない。
響は次の日早番のバイトだったので、シャワーを浴びて早々に眠りについた。
タクヤは友達と約束があるとかで、夜中に出て行って次の日の朝まで帰ってこなかった。
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