土曜日がやってきた。
アオハルの出るライブは19時半スタートだ。
響はその日朝からそわそわしてしまって、バイトも休みだったので部屋でギターを弾いて気を紛らわせていた。
拓也は仕事から17時くらいに帰ってくるので、一緒にラーメンを食べてから行こうという話になっていた。
アオハルのメンバーに聞けばきっと叔父の居所が分かるだろう、と響は思った。
そのことに胸を躍らせつつ、自問していた。
なぜ自分はこんなに叔父にこだわるのだろう。
なぜこんなにも会いたいのだろう。
父のいない響には、あの人が記憶の中で初めて抱きしめてくれた男の人であり、
そして、血がそうさせるのか、あの目を強く求めるのだ。
静かで優しいけれど、底知れない何かを秘めた深い瞳。
いつかおいで、響きに聞いてほしいって言ったあの人に、もう一度会いたい。
話がしたい。
響はそんなことを思いながらギターをかき鳴らし、気づいたら歌い出していた。
エレカシの「リッスントゥーザミュージック」だ。
井の頭公園に行ったことがないから、池に浮かべたボートも、2人が何に腰掛けているのかも想像できない。
それに歌詞の中の2人みたいな気持ちは、響きにはまだわからないけれど。
それでもこの歌が好きだ。
宮本浩次みたいに声が出ればいいのに、と思いながらラストの自由な即興のようなシャウトを頭の中真っ白にして歌った。
歌い終わって、ぼんやりと窓の外を眺めた。
空は青く、もくもくと積乱雲が盛り上がっている。叔父にあった日も、あんな雲が出ていた。
自分に会ってくれるだろうか。それとも、会いたくないと思っているかもしれない。
まあいいや。
響は、今は会いたいという気持ちだけで充分だと思った。
叔父の気持ちまで考えたところで、分かるはずもない。
そう思ったら爽快な気持ちになった。
そしてエレカシの「武蔵野」を歌った。
ギターと歌は、最高に楽しい。
空想都市一番街
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