とある夜、ふとした記憶

すばるは勉強の合間に、シュリとリビングルームでお茶を飲んでいた。

「ねぇ、私たまにさ、なーんか、1人足りないなぁって思うんだ。誰かいないって」

「え、それ俺もあるよ。なんだろうね。気のせいだと思うけど。」

「そうだよねぇ…へんなの。なんか、ナ…」

「ナ?」

「ううん、なんでもないや。」

特に意識したわけでもなく自然にぽつりと出てきた言葉。なぜ出てきたのか分からなかった。

「怖い話でさ、実はもう1人いたのにいつの間にか何かに消されてて、他の人の記憶からも消されてて、存在が無いことになってるって話あるよね。ああいう話不気味だよなぁ。ここでも起きてたりして」

シュリが冗談めいて言う。

「うん…案外起きてるかもよ。だってよく一個余るじゃない?

おやつの数、ぴったり買ってるはず
なのに一個多かったり。うちに買ってあるお友達用のグラスも一個多いし。
あとゆでたまごいつも一個多く茹でちゃったりさ。」

「それはすばるがおっちょこちょいなだけなんじゃないの」

シュリは笑ったけど、思い当たることはあった。

「じゃあもし俺たちの他に1人、無かったことになってる人がいたとして。すばるならどうする?」

「うーん…思い出せなくてごめんね、忘れてても愛してるよって心で思う」

「忘れてても愛してるの?」

「当たり前じゃん!きっと友達だったんだから。ナ…」

すばるはそれ以上声が出なくなって黙った。

頭の中が霧かかって声が出なくなる。

何かの魔法にかかったみたいだ。

「そうだよな…じゃあ、俺も心で思う」

そしてシュリは祈るように手を組んで目を閉じた。

何故か急に涙が出そうな気持ちになった。

とても懐かしい感じがした。

何も心当たりは無いのに。

(もしも本当に忘れてたら…きっといつか、お前を思い出すから)

愛してる、と祈った。

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