すばるは社会福祉士の試験を受けた。
ずっと頑張って勉強してきたから、力を出し切れるようにと体調にも気を遣って試験に臨んだ。
胸にはタクヤにもらった合格祈願のお守りを下げて行った。
いつもタクヤに肯定されている気持ちになれた。大丈夫。
そうして臨んだ試験当日が終わり、ひとまず肩の荷が降りたすばるはシェアハウスに戻るとシュリと一緒にご飯を食べ、泥のように眠った。
夢に母のレイナが出てきた。
「よく頑張ったわね、すばる。」
レイナはすばるを抱きしめて頭を撫でた。
「ママ、ありがとう。」
もっと抱きしめていて欲しかったのに、レイナはすぐ離れてしまった。
「受かるといいわね。そうそう、こっちへ来て、あなたに会わせたい人がいるの」
すばるは手を引かれ、ドアの中に入る。
そこには、タクヤがいた。
「私たち、再婚することにしたのよ。喜んでくれるわよね?」
あまりのことにすばるは絶句した。何が起きてるのか分からない。
「すばる、俺たちまた親子に戻るけど、これからもよろしくな」
タクヤが嬉しそうに微笑んでレイナの肩を抱く。
今までに戻ったのだ。お互いに愛してる気持ちを確認しあったのは、あり得ない夢だったのだ。
大好きなパパ。
すばるは心臓がドクドクと音を立てていた。
「あなたはタクヤが私よりあなたを選ぶとでも思っていたの?現実を見なさい」
そういうとレイナはタクヤの頬に触れ、すばるに見せつけるようにキスをした。
タクヤもレイナの体を抱いて、深くキスをしている。
「やめて…やめて…こんな現実は嫌…やめて」
すばるは泣きながら耳を塞いで目をつぶってしゃがみ込んだ。胸が張り裂けそうだった。
ハッと目を覚ましたのは自分の部屋。
時計は夜中の1時を回っていた。
顔は涙でぐしゃぐしゃで、パジャマも汗でびっしょりだった。
「夢…」
まだ心臓がバクバクしている。
なんて嫌な夢。
だけど、夢でよかった。こんなことが現実じゃなくてよかった。
すばるは起き上がるとシャワーで汗を流しにいった。
久しぶりにレイナの夢を見た。
子供の頃に離れて以来、ほとんど会っていない母。
タクヤはそもそも母の恋人だった。
そしてすばるの義理の父になった。
こんな夢…
すばるは、もしかしたら自分には罪悪感があるのかな、と思った。
熱いシャワーを浴びながら、自分の気持ちを探る。
本当は好きになっちゃいけない人を好きになったのに、
それを受け入れてくれたタクヤ。
タクヤはきっと周りの人に、責められているはずだ。そのために失った関係もあるかもしれない。
すばるにそれを見せてはいないけど。
本当はタクヤは、自分を盾にしてすばるを守ったり、たくさん辛い思いもしてるのではないか。
なんだかそんなことを思ったら胸が苦しかった。
シャワーを浴び終えて、キッチンに水を飲みにいくと、リビングでまだシュリが起きて本を読んでいた。
「あれ、ずいぶん夜更かしだね。」
すばるは声をかけた。
「うん、もうこんな時間か。本が面白くてずっと読んじゃった。すばるこそこんな時間にどうしたの。」
すばるはシュリの隣に座った。話してみようと思った。
「あのね…」
夢のこと、タクヤは責められてるのかもと思ったこと。それに罪悪感を抱いている自分の気持ち。
シュリは黙って聞いてくれた。
「…フフッ、すばるが罪悪感抱くことはないよ。だってすばるを選んだのはタクヤなんだから。人の批判も全て、分かった上でね」
「でも…私が最後までちゃんとパパのこと諦めきれてたら…」
シュリはバレンタインのあの日、そのすばるの気持ちを精一杯邪魔したことを思って笑った。
「俺のせいでもあるし。←小声
あのね、それにタクヤはすばるが思ってるよりすばるのことが好きだよ。俺、子供の頃から一緒にいるから分かる」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうだよ。そりゃ、子供の時はそんなじゃないけど。タクヤがすばるを遠ざけようとしたり、それって自分もすばるのこと好きだったから、わざとしてたんだ。すばるを傷つけないために。タクヤ自身も気づいてないみたいだったけど。」
すばるは目を丸くした。
「ええ?でも、そんなの分からないじゃん…」
「ルイが言ってたからほんとだよ。」
シュリがちょっとドヤ顔で微笑んだ。
分かる、と言いながらルイの受け売りなシュリ笑
「血が繋がってなくても、娘を愛すことを決心するって並大抵の覚悟じゃないぜ。タクヤは心を決めたんだから、大丈夫。
大っぴらに言える関係じゃないかもしれないけど、でもお前らお互いに求め合ってるんだろ。それなら貫けよ。」
すばるはその言葉に胸がいっぱいになって涙が出そうだった。
「…ありがとう」
涙をこぼしたすばるの頭を、シュリはなでなでと撫でた。
「幸せになれよ。俺はいつも味方だから」
子供の頃、こうやってすばるに頭を撫でられたっけ、とシュリは思った。
俺が幸せにしたかったけど、タクヤと幸せになるなら、それでいい。
「うん。ありがとう。シュリと友達でよかった」
すばるは笑った。それはシュリが子供の頃からずっと見てきた、太陽みたいな笑顔だった。
それから1ヶ月ほど。
すばるは合格通知を受け取った。
ずっと勉強してきたことが実を結んだのだった。
シュリも泪も、友達も、それにタクヤも、心から祝福してくれた。
一つ前に進んだすばる。
卒業後の就職先も決まった。
あとは、住まいだったが…
仕事に慣れるまでは職場の近くのマンションに住み、
軌道に乗ったらタクヤと一緒に暮らそうかと思っていた。それはまだはっきりとは決めていない。
とにかく新生活が待っている。
その前に、卒業式と、その後のAZEMICHIのライブ。
その日を楽しみに、すばるは新生活準備をするのだった。
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