「ユウリちゃん」
泪は声をかけながら、テーブルの上に右手を差し出した。
ユウリはその手を見て、泪の顔を見た。
手をだして。
泪の目がそう言っていた。
ユウリはマグカップを置いて、泪の手に自分の左手を重ねた。
その手を、泪は温かい手でぎゅっと握った。
「話してくれてありがとう。辛いこと思い出させてしまってごめん。」
ユウリは首を振った。言葉にならなかった。涙は勝手に溢れた。
「ねぇ、そっちのソファに座ろうか。一緒に外を見ながら。」
泪に促されて、ユウリはうなづいて席を立ち、並んでソファに座った。
泪はそっとユウリの肩を抱いた。
ユウリは泪の胸に頭をそっと預けた。
「悲しい出来事だったんだね。神はいないってきっと僕もそう思う。神の沈黙は残酷だ。僕らはいつも試されたり試したり。直接話すこともできないんだ。そして弱く善良な人が死んでいく。」
泪の体に預けた頭から、泪の声が聞こえてくる。
「そう。お母さんのことも救わなかった。アタシのことも…」
「え、ユウリちゃんも何かあったの?」
ユウリはハッとして首を振った。
泪の胸で少し気が緩んだようだ。
「…なんでもないよ、アタシのこともきっと救わないって思っただけ」
「…本当に、何もない?」
泪の問いかけにユウリは泪を見て微笑みながらうなづいた。
「本当に。きっと辛いことがあっても助けてくれないんだろうなって思っただけだよ。」
泪は微笑んだユウリに少し安心したけど、きっとユウリは話さないだけで、何かを抱えているのだろうと思った。
「ルイさんは優しいね。アタシあんなこと言ったのに。どうしてこんなに優しくしてくれるの?」
ユウリの問いに、泪は笑ってユウリの頭を撫でた。
「僕はあまり腹を立てることが無いんだ。だからクソ野郎なんて言われてもどうも思わない。それに…」
泪はユウリの頭に頰を寄せるように言った。
「君のことが好きなんだ」
ユウリはその響きに真っ赤になって、一層涙が流れてきた。泣きたくなんかないのに。とても、嬉しかった。
泪は何も言わずに手を握った。
ユウリはその手を強く握りしめた。
「ありがとう、ルイさん。アタシもルイさんのことが好き」
「…ふふ、すごい嬉しい」
泪はユウリを抱きしめた。ユウリもその身を預けた。
海と美しい日本庭園を望みながら、2人は抱きしめ合った。
それはまるで、天国みたいに幸せでかけがえのない時間だった。
「ねえルイさん、もしもアタシが迷子になったら、この場所を約束の場所にしてくれる?迷ったらいつも、ここで待ち合わせ。それでも、いい?」
「もちろん。ユウリちゃん迷子になるタイプ?」
ユウリは笑った。
「あはは、そういうわけじゃないけど。アタシとルイさんしか知らないこの場所を、2人の約束の場所にしたいの」
ルイはうなづいた。
「わかった。僕たちだけの場所だね。」
泪はそっとユウリの頬に手を当てた。
ユウリが目を閉じて、泪はそっと唇を重ねた。
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