ルイ一家の海水浴③ ※LOVE要素あり

砂浜に戻ったルイは、すぐに医務室にシュリを連れて行った。
意識はあるし、海水をたくさん飲んだけれど命に別状は無いと言われ愛美は初めて涙を流してシュリを抱きしめた。
愛美は小学校の教員なだけあって有事にも冷静だが、我が子の無事には流石に気が抜けたようだ。

離岸流とは押し寄せて溜まった波が沖へと戻る強い海流だ。
海水浴場でもたまに起こることがあり、沖に流されることへのパニックで事故が起きることもある。

シュリはルイがすぐに発見して保護したので無事だったし、他の海水浴客たちも無事だったようだ。

「ルイ、母さん、ごめんなさい。おれもう大丈夫だよ。心配かけてごめんなさい」
「シュリは何も悪く無いから大丈夫だよ。無事で本当によかった。」
「そうよ。無事で本当によかったわ」

ルイはシュリを抱きしめてから抱き上げ、愛美の肩を抱いて、医務室を後にした。

離岸流の発生で海水浴場も急遽閉鎖になったし、今日はもう帰ることにした。
3人が着替え終わって車に荷物を詰め込んでいる時、ルイは目の刺すような痛みに一瞬足元が揺らいだ。

「くっ…!」
「ルイさん?!」

愛美に心配かけないように、着替えた時に普段使いのサングラスをかけたのだけど、目のダメージは思ったより深かったようだ。

「ルイさん、目が痛いのね…私が運転するから、帰りは休んでて。」
愛美はそう言うとクーラーボックスから冷えたアイマスクを出してルイの目に当ててくれた。
「ありがとう。悪いけどお願いするよ。」


後部座席で目を冷やしていると、チャイルドシートに座ったシュリも心配そうにしている。
「ルイ…おれのせいで、痛いんだよね。ごめんなさい」
その声にルイは微笑みながら腕を伸ばしてシュリの頭を撫でる。
「シュリのせいじゃないよ。昔からよくあることなんだ。大丈夫。一晩休めば良くなるよ」
目を冷やしてたから見えないけど、シュリは泣きそうな顔をしていただろう。

「今日はたくさん生き物を捕まえたね。ウミウシは飼育が難しいから、新しい水槽を買ったよ。帰ったら家に届いてるはず」
「えっ!!ほんと?」
シュリの声が弾む。
「本当さ。じぃじが水族館経営してるのは知ってるだろ?だから頼めば納品早いんだ」
シュリが笑ったのを手のひらで感じて、ルイはホッとした。
金持ち親バカの裏技発動であった。

帰宅すると水槽が来ていたので、ルイは採取してきた生き物を入れてセッティングをして、シャワーを浴びたらベッドに入って休んだ。

「ルイさんは目を休めるから、シュリは私と生き物の観察しましょうね」
「うん。母さん、ウサギの名前決めた?」
「チェリーにしようかな」
「かわいいね!チェリー。」

生き物を観察していたら、いつのまにか疲れてシュリは寝てしまった。
愛美はそっと抱き上げて、子供部屋へ運んでいく。


「今日はたくさん冒険したね。愛してるわ」
おでこにキスすると愛美はそっと部屋を出た。


「ルイさん…?」
夫婦の寝室にそっと声をかけながら愛美は入っていった。

ルイは呼吸も荒く寝苦しそうにしている。
愛美は急いで駆け寄って額に手を当てた。
「すごい熱。冷やさなきゃ…」
新しいアイマスクと凍らせたタオルを持ってくると、愛美はルイの目と額を冷やした。
「ん…ありがとう愛美さん」


愛美はルイの髪を優しく撫でている。

「いつも素敵だけど、今日のあなたも素敵だった。シュリのこと助けてくれてありがとう。辛い思いさせてしまったわね」

「ふふ、愛美さんに褒められるの好きだな。僕カッコよかったでしょ?なんてね…ねぇ、大人の役割って何だと思う?」
「大人の役割?…子供たちを守ることかしら?」
「そう。僕たちは何があっても子供たちを守るのが役割。いつでも子供達の味方で、守ること。子供達は無垢で弱いから、見守って、失敗したらフォローすること。…なんて、よく父が話してた。僕もそんな大人になりたいって思った。
今日は僕の準備が甘かったから、こんな風になっちゃったけどね。でも例え目が見えなくなっても、いつでも守る。シュリのことを守る。いつまでもあの子の味方でいる」

愛美はルイの髪を撫でながら、手を握った。

「愛する私たちの息子ですものね」
「うん。そうだね」

部屋の外ではルイを心配したシュリが起きてきてそっと中の話を聞いていた。
まだ幼いシュリにも、ルイが言ってることは理解できた。
そして今日聞いたことは、その後シュリが大人になってもずっと忘れない大切なことになった。

「いつでも守る。いつまでもあの子の味方でいる」

シュリは嬉しくて涙が溢れた。ルイが父親で嬉しかった。愛美とルイが自分を深く愛してくれていることが嬉しかった。

自分を絶対に愛してくれる人がいること。それだけで強くなれる様な気がした。

シュリは涙を拭いながら、2人にバレないように、そっと部屋へと戻った。

「そういえば、今の僕の目見る?いつもと違うよ」
「え?赤く腫れたりしてるんじゃ…」

答える前にパッとルイは目を見せる。
「え…!」
その目はまるで蛍みたいに淡く光っているように見えた。引き込まれる力も強くて全然違う。

「なんか、光を見過ぎると制御不能になっちゃうみたいでさ…身体中も熱いし、ちょっと、助けてくれるかな…」
「助けるって…」
「分かるでしょ?」

ルイは愛美をベッドの中に引き寄せた。
ようするに、滾っちゃうらしい笑

「もう、熱あがっちゃうわよ?」
「大丈夫。君が冷ましてくれるでしょ?」

ということで夫婦は今日も幸せな夜を過ごしたのであった。



次の朝。

「おはよう、シュリ。朝ご飯出来てるわよ〜」

愛美が起きてきたシュリに明るく声をかけた。

「うん、母さんありがとう。…ルイは?」

シュリが心配そうにしている。愛美は味噌汁をお椀によそいながらニッコリ笑った。

「寝室に呼びに行ってくれるかしら?母さんはご飯をよそってるから」

シュリは「うん!」と寝室へかけて行った。


昨夜は一緒に寝てるうちにみるみる蛍のような光はおさまって、熱が下がる頃には痛みもすっかり引いていた。


愛美は落ち着いてすやすや眠るルイにそっと声をかけた

「私も、あなたの味方よ。何があっても、いつまでも」


「母さん!ルイが元気になった!」

シュリが嬉しそうにルイの手を引いて寝室から出てきた。

「心配かけたね。もう元気だから大丈夫だよ!」


そして三人はいつも通り、優しくて楽しい朝ご飯の時間を過ごしたのであった。


「今日はチェリーの餌をもらいにじいじの所(水族館)に行こうか」

「うん、行く!」



夏は始まったばかり。

世界中の子供が愛情溢れた楽しい時間を過ごせますように。



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