『僕』とレナ④

僕は血まみれの服を着たまま、アオが連れてきた廃屋の一室で膝を抱えていた。

「あの後、彼女は…?」
「知らない方がいい。」

アオはいつになく真面目な顔で言った。

僕は声も無く泣いた。自分でも泣いてるのかよく分からないくらい泣いた。

僕がひとしきり泣くのを待って、アオは言った。

「今回の人生は終わり。君は放っておいてもまたやり直すんだろうけど、その前に」

アオは僕の肩を叩いた。
僕の着ていた血染めの服は一瞬で綺麗になった。

「君の話を聞かせてよ」

今まで見たことのない優しい顔でアオは言った。


「1番初めは、レナさんが僕を置いて死んでしまったんだ。あの男のせいで。あの時の悲しみを忘れることができない。
僕も彼女の後を追った…つもりだったのに、気づいたらまたレナさんとの出会いからやり直していた。

2回目は僕もレナさんもあの男に殺された。

3回目は、あの男を殺したけど僕は捕まって死刑になった。彼女は僕が死ぬ前に交通事故で死んでしまった。僕は銃殺刑だった。

4回目は…5回目は…6.7.8.9.10.11…
人生を何回も繰り返した。どうやっても、いつもレナさんは苦しんで死んだ。僕はどうしたらこのループから抜けられるのかずっと考えてた。
そして何百回もかけて一つの方法にたどり着いた。

運命の身代わりという奴だ。

自分の身を使って彼女の運命を変える方法。
自分を他の誰の記憶からも消し、守るべき人の中からも消すこと。そうすることで悪しきループにいるものの身代わりになることができる。

自分がどんなに守っても無駄だった今、それしか方法はなかった。だから僕はそうしたんだ。」

僕の懺悔をアオは黙って聞いていた。

「君は自分の記憶まで消す必要はなかったはずだ。どうして消してしまったの?」

「…怖かったんだ。誰からも忘れ去られた世界に生きるのが。だから、忘れ去られたことさえ忘れてしまえばいいって思って…」

「だけど結局無意識のまま、君は大切な人たちと関わり、彼女とも関わってしまい、身代わりは失敗したってことだね」

アオの言う通りで、僕は何も言葉が出なかった。

「…もう一度やる。今度は徹底的に、誰にも近寄らない。記憶も消さない。そうすれば今度こそ、彼女は…」

僕はワナワナ震えていた。体から赤い煙が出ていた。手がバキバキと形を変え鋭い爪が生え始めた。

「こら!ちょっと落ち着けよ!」

ピコン!!とアオが僕をピコピコハンマーで力任せに叩いた。

瞬間、僕の姿は元通りになった。

「馬鹿だね君は。悪魔になるよ。あのね、運命の身代わりは人間には無理だよ。たとえ君が今人間じゃなくても。私には出来るけどね。そこにたどり着いたのはすごいけど、とにかく君にはその方法自体間違ってるんだ。そこから考え直さなくてはならない」

「無理なもんか!!今回は失敗したけど、もう僕は人間じゃないんだ、次こそ…」

またピコピコハンマーで叩かれた。
今度は軽く一発。

「だから、無理なんだって。君のその体は何?人体なんかじゃなく、ほとんどドールじゃないか。まだ能力も低いくせに、心を捨てきれなくてその下手くそな入れ物をよくもまぁ、無意識で作ったもんだよ。それこそが『執着』さ。
人間や、君みたいな人間に近いものは執着をそう簡単に捨てられないのさ。執着があれば身代わりは出来ない。意味分かるね?」

アオの言ってることは分かる。分かりたくないのに分かってしまう。
どっから持ってきたか分からないあのピコピコハンマーには、心を冷静にさせる効果があるに違いないと思った。













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