『私は人の情事を覗くほど無粋じゃないけどね。今回は悪いけど少し見させてもらったよ。
それで君のことが大体分かった。君が抱えてる問題。
君って、本当に…馬鹿一途』
アオはレナと『僕』が眠る部屋の空間に浮かんでいる。
『忘れられるはずもない人を無理やり忘れたって、耐えられるはずがない。偽物の体を作ってでも、こうして結局帰ってきてしまうだけなのに。』
『僕』はレナを抱きしめたまま幸せそうに、寝息を立てている。
『ねえ君、何回死んだの?彼女のために』
アオの呟きは、寝ている『僕』の脳内に滑り込んでいった。
『僕』は小さく体をゆすって呼吸が荒くなる。
「…呆れた…」
アオは思わず声が出た。
『そんなに死んだの?そんな人間聞いたことない。
耐えられるわけ無いのに…だから君は途中で人間ではないものに変わったのかな。
いずれにせよ私には今の君たちに何かする権利はない。「今回の結末」まで見届けさせてもらうよ』
次の日、僕はレナさんの作ってくれた朝ごはんを食べ、別れた。
帰り際に、またね、と言ってキスしてくれた。僕は昨夜のことは夢じゃなかったんだなと思った。
それからも僕らは時間さえあれば一緒に楽しく過ごした。レナさんの家に行くことも何度かあった。
僕らの絆はますます深まっていたし、僕は彼女を守ること以外頭になかった。
そう、今度こそ彼女を守る。
その為に、どんな時でも気を緩めるわけにはいかなかった。
「お帰りなさい」
レナさんが玄関で革靴を脱ぐ男に言う。
「ご飯できてるよ。私、バイトだからこれから出かけるから。」
喋りながらレナさんは震えていた。怯えているのが分かった。
「あー…なんだ、お前それ」
男はレナさんの首にかかったネックレスを掴んで乱暴に引き寄せた。
「…っ!!」
「男にでももらったか?初めて見るデザインだな。」
「ちが…っ」
男はレナさんの襟元を掴むとリビングに引きずっていった。
「嫌!離して!」
「お前を育てたのは誰だ?お前を生かしてやってきたのは誰だ?何回も教えてやらないとわからないみたいだなあ」
男が無理やりレナさんをソファに押し倒して馬乗りになった。
「嫌だ…!!もう嫌!!お前の好きな様になるのはもう嫌!!」
男が叫ぶレナさんの服を力任せに引きちぎった。
「嫌!!!助けて!!」
絶対に許さない。
僕は男の髪を掴んで引きずり倒すと、力任せに顔面を殴った。
「なんだお前…」
男が目を見開くのが分かった。そうだよ、お前が何度も見てる顔だ。
それから僕はもう自分の力を抑えられなかった。男を、ただ苦しめることしか頭になかった。
お前さえいなければ。お前さえいなければ。
「いやあああ!!もうやめて!!なんで僕くんがここにいるの?!」
レナさんの叫び声で僕は我に帰った。
部屋の中はめちゃくちゃで、僕の手には…
「…っ」
原型の無い肉塊と血溜まり。
レナさんは狂ったように泣き叫んでいる。
なんだこれ?違う僕はレナさんを苦しめたいわけじゃない。
「れ、レナさん」
「いやあああ来ないで!!」
僕は絶望と共に手の中の肉塊を落とした。
また失敗した。
僕は震えながら、手に持っていた包丁を自分の腹に突きつけると、力を込めて刺した。
「ごめんねレナさん…次は、必ず…」
視界の中の怯えたレナさんが見えなくなっていくと、ブレーカーが落ちるように辺りが暗くなった。
「君がこんなに感情的になるなんてね。ここまでだよ。さあ、おいで」
アオが暗闇の向こうから手を差し伸べてきた。
僕は呆然とその手を取った。
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