「世界の外側には神々の国があった。ある日神たちは気まぐれに『この宇宙』を作った。そこに、『破壊と創造』を作って閉じ込めた。そして神々は中で起こることを観察した。この宇宙の行き先をじっと見ていた」
悠斗は拓也の部屋で見つけた神話の本を手に取り、ベッドに寝転んでなんとなく読んでいた。
拓也はまだシャワーを浴びている。
純文学が好きな拓也の本棚に神話の本があるのが意外だった。かすかなシャワーの音を聞きながら、悠斗は拓也のベットの上でゴロリとうつ伏せになり続きを読む。
「『破壊と創造』はそれぞれの役割を果たしながら、果てしない時をかけて世界を作っていった。世界が安定するにはさらに果てしない時がかかった」
一体どこの神話なのだろう?今まで聞いたことのない話に悠斗は首を傾げ、もう一度表紙をよく見てみた。
文庫サイズの本にはしっかりした濃い紫色の表紙がついていて、金の刺繍でシンプルに『神話』とだけ書いてある。
作者や編者の名もない。裏表紙や奥付も見てみたが、なんの情報もない。
悠斗は続きが気になって読み進める。
「破壊は純粋に破壊であり、創造は純粋に創造だった。二つは純粋に存在していた。相反していて、しかしお互いの一部でもあった。この宇宙を作った神々は、選ばれた特別な2人を依代に二つを作った。」
そこまで読んだ時、バスルームのドアが開く音がして、拓也がバスタオルを腰に巻いてタオルで髪を拭きながら部屋に入ってきた。
「ふぅ、暑いな。」
扇風機を自分に向けて、冷蔵庫から出してきたミネラルウォーターをグビグビと飲む。
「拓也さん、この本何ですか?珍しいから読んでた」
悠斗がベッドで頬杖をついて拓也を上目遣いに見上げる。
「んー?どれ」
Tシャツとパンツを着ると拓也はベッドに座ってその本を覗き込む。
「ああ、それ駅前でこの前配ってたんだよ。」
「ええ?なにそれ。なんかの宗教ですか?拓也さんそういうのもらわなそう。」
首を傾げる悠斗がかわいいくて、拓也は無意識に悠斗の頭を撫でながら答える。
「俺もそう思って最初は断ったんだけど、その人、宗教じゃないって言うんだよ。「私が作った自費出版の物語だから、よかったら読んでほしい」って。なんか不思議とさ、その人の顔見てたら断る気が無くなっちまって。それでもらってきたんだよ。まだ全部読んでないけど」
「ふぅん…どんな人だったんですか?」
拓也は悠斗の隣に横になってうーんと考えている。
「それがさ…あんなにちゃんと顔見たのに、印象っていうの?全く残ってないんだ。こんな顔だった、ていうのは思い出せるんだけど、なんか凡庸というか、スマイルマークみたいで。」
スタジオ経営で普段から客の顔や色んな取引先の顔を覚えている拓也にあり得ない話だ。悠斗は狐につままれたような気持ちになる。
「…へんなの。でもなんか不思議な話ですね。この神話も、引き込まれるっていうか…」
悠斗が話し終えるより早く拓也はTシャツを脱いだ。
「そうだな。」
拓也は悠斗の上に乗ってキスをする。
「んん…ふふっ、Tシャツ着る意味なかったですね」
「全然なかった。お前見てたらかわいくてムラムラするし。本は後にして、今は抱かせて」
まったくなんてストレートな人だ、と悠斗は心の中で思って笑った。
獣みたいな目で本気で愛してくる拓也に今夜も悠斗はめちゃくちゃにされるのだった。
『不思議な神話と恋人たちの夜』
終わり
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