コウタに恋愛感情を抱いたことはない。
コウタはデザイン事務所で働いている生粋の芸術肌で、整った顔の美少年という印象だった。
いつもクラスの中心グループにいるタイプで、酒にめっぽう弱く、学生の頃から周りの酒豪バカどもに付き合わされて潰れては粗相をして、いい意味で仲間達からのネタにされる愛されキャラだった。
人見知りでなかなか人と打ち解けられず孤立しがちな僕とは正反対で、
酒がなければコウタと仲良くなることはなかっただろう。
住んでいる世界がまるで違う人物だった。
酒の力で、僕たちは知り合って、友達になった。
可愛い男の子だと思っていたが、恋愛感情は持ったことがなかった。というのも、知り合った時からすでにコウタにはアイという彼女がいて、僕には彼氏のマサトがいたからだ。
僕らは4人で、意気投合してよく飲みに行った。住んでいるところも近かったから、それは結構な頻度だった。
4人でなくても、僕はアイと2人で飲むこともあったし、もちろんコウタと2人の時もあった。
僕ら二組のカップルはお互いを信用していたので、パートナーが相手の恋人と2人で飲もうとまったく気にも留めなかった。それが僕たちの間では普通のことだったのだ。
コウタはホテルのソファの上でタバコを吸いながら言った。
「アイを理解できるのは俺だけだ。ずっとアイと一緒に生きてきたんだ。途中から入ってきたマサトがあの子を救えるわけない、絶対に」
追い詰められた心が語気を強めさせた。僕は黙ってうなづくしかなかった。コウタの悔しさがよく分かった。
僕の夫となったマサトはアイと不倫をしていた。
全くの寝耳に水の話に、僕は最初ポカンと馬鹿みたいに口を開けて黙るしかなかった。
だって僕たちはそんな関係じゃなかったはずだろ?
僕たちは頭がぐちゃぐちゃで、理解と体の動きが全く伴わなかった。
2人で会ってことの顛末を話し合って、どうしたらいいのかわからない恐怖を酒で誤魔化しながら、結局お互いの寂しさを埋め合うことしか出来なかったのだ。
コウタとはそれから2回2人であった。
お互いに埋め会いたいと思ってることは分かっていた。
だからいつも通りに会い、いつものように飲み、いつものように話、(時折泣いて)、最後には寝た。
2回目に寝た後駅前の喫茶店で話をしていた時、もうコウタとはこれっきり会わないような気がした。
話しながら2人で吸う途切れることのないタバコ。すぐに山盛りになる灰皿。
楽しそうに見えて陰鬱で、僕たちはお互いに埋め合うしか出来ないこと。
それ以外にないことを言葉じゃなく悟った。
駅で、またね、と言って別れた後は二度とコウタに会うことはなかった。
僕は住み慣れた街に帰ることもなく、何度かの協議の末にマサトと離婚した。
コウタたちがどうなったかそのあとはわからない。
願わくばコウタには幸せであってほしい。でももう、それは僕の預かり知らぬところだ。
「そういうわけだから、僕はコウタともアイともマサトとも話をしたくない。まだ今の僕には刺激が強いんでね。そんなに時間が経ってないんだ。ホットな出来事なのさ」
僕があの日の公園のベンチに座りペット缶のお茶を飲みながら話すと、その人はうん、とうなづいた。
空は変に灰色で、夕方なのか早朝なのか、時間がよく分からない。
公園には誰もいない。僕とその人だけが向き合っていた。
「すごい力だったよな。すばるの握力。あんなお前を見るのは初めてだったよ。あの時オレに実体があればな。コウタじゃなくて、オレが止めたのに」
「彼」は言った。
「ハハ。あなたと寝るのはイヤだよ。あれは、寝ることまでセットだったんだ。間違っているとか正しいとかじゃなくて、あの時、そうすることが必要だったんだ…」
思い出したら涙が流れた。下を向いた僕の膝に、ぼたぼたと涙が落ちた。
「彼」は隣に座って僕の肩を抱いた。
「いいんだよ。それで。誰もお前を責められやしないよ。もう全て終わったことだ。もうお前は大丈夫なんだ」
そう言われて、「彼」の顔を見上げる。
ずっと何年も何年も僕のそばにそっといてくれた人。僕の空想が作り出した、僕の守り神。僕の優しくて強い友達。
「彼」は優しく微笑んだ。
その顔を見て僕はやっと思い出した。
あの車掌の顔だ。
「あなたは、また僕を守ろうとしてくれてたんだね。」
僕は「彼」の胸にそっと寄りかかった。
彼の大きな手は、僕の肩を優しくトントンと撫でてくれた。
空想都市一番街
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