闇で見守る者 12 生き残る R指定 暴力表現

暁音は長い時間車で運ばれた挙句に、男に連れてこられた薄汚れた暗い部屋で、拘束されたまま昼も夜もなく陵辱されたり暴力を振るわれ続けた。

もうどれだけ時間が経ったのか分からない。

この場所が、いつか話に聞いたことのある「スラム」だということには気づいていた。
窓から見える景色はケバケバしい看板やぎっしりと立ち並ぶ煤で汚れた集合住宅。
日の光さえまともに入らないここは、自分のいたメインシティから遠く離れた地獄だと、暁音は虚無な心のままぼんやりと思っていた。

喉が渇いた。

床に無造作に置かれたバケツの中から濁った水を飲む。

咳き込んで、ほとんど何も入っていない胃の中のものを吐き戻す。

もうすぐ僕は死ぬ。早くその日が来て欲しいと、力無く床に倒れ思っていた時だった。


ドンッ!!!


どこか近くで爆発音がした。同時に地震のような揺れが建物を襲う。

何かが起きている。でも、暁音にはもう立ち上がってそれを確かめる気力もない。

頑張ったって、もう自分を待っている人たちはいないのだ。生き延びたところで、待っているのは残酷な現実だけ。

このまま何かが起きて死んでしまえるならそれでいい。

そう思っていると、ガチャガチャとドアノブを回す音がした。

あいつが帰ってきた、と思って暁音は無意識に丸くなって身を縮める。

もう消えてしまいたいのに、体は無意識に自分を守ろうとするのだな、と笑いたいような気持ちになる。

しかしドアはなかなか開かれなかった。

ドンドンッ!!と何度も叩く音。
これは、ドアを蹴破ろうとしているのだと暁音は気づく。

バンッ!!

ドアが内側に勢いよく倒れ、数人の男たちがなだれ込んでくる。

「クソ、よく探せ!!まだここにいるかもしれん!!」

バタバタと足音が暁音のいる部屋へ近づく。

1人の男が、部屋のドアを開けた。

「あっ!おい、子どもだ!!子どもがいるぞ!!」

男は大きな声で伝えると、暁音を抱き起こした。

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

男は自分の着ていたジャケットを脱いで暁音を包むと、抱き上げて部屋を出る。

「俺は子どもを運ぶ!お前たちは奴の捜索を頼むぞ!」

「分かりました!気をつけて!」

男は風のように廊下や階段を走り抜ける。暁音がいた建物からしばらく走ると、そこには一台の車が停まっていた。

「ボス!その子はまさか」

ドアを開けて車に乗り込むと中にいた男は驚いて声を上げる。

「そうだ、とにかく急げ!衰弱が激しい」

急発進した車は狭い道を走り抜ける。

「頑張れよ。すぐ医者に連れて行ってやるからな。何も心配いらない。大丈夫だ」

ボス、と呼ばれたその男は暁音を抱きしめて体をさすり続けた。暁音は気が付いていなかったが、今日は特に寒い。体が冷え切って低体温症になりかけていたのだった。

ほぼ裸同然で冷たい木の床に転がされていたのだ。無理もない。

僕は頑張らなきゃいけないのか

暁音は薄れゆく意識の中そう思った。

もうたくさん頑張ったし、これ以上頑張ってももう、僕を待ってる人は誰もいないのに。

「生きろ!!!」

ボスが大きな声で言った。

「諦めるな!!!」

抱きしめる力が強くなる。

「お前は好きなようにやられたままでいいのか?
許さないなら、このまま終わりたくないなら、生きろ!生き残れ!!お前は1人じゃない。俺たちがついてるから!」

ボスが必死に語りかけてくる。

アイツに、好きなように、やられたまま…

今までの悪夢がフラッシュバックする。

あいつは、大切な家族を奪った。

暁音を、モノを扱うかのように好きなように弄んだ。

嫌だ。絶対に。許さない。
このまま終わりたくない。

暁音の中に小さな火が灯った。それは消えそうな意識の中で本当に小さな火だったけど、暁音の命を繋ぎ止めるには大きな力だった。

「おじ…さ…」

声を振り絞った。

「僕は、生き残る…」

暁音の意識はそこで途切れた。

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