拓也と会ってから帰宅した響は、まだ事実がうまく飲み込めず、ボンヤリと部屋のベッドに座っていた。
叔父の情報を少しだけでも掴んだ、そのことがまるでウソみたいだった。
「響、ご飯だよー」
「あっ、今行く」
このことを母にどう話すべきか迷った。いつも叔父の話をするときの母の表情が気になったからだ。響の知らない母の顔。
「響、今日路上ライブして来たんでしょ?」
響は思わず麦茶を吹き出しそうになった。
「何で知ってんの?」
「そりゃわかるよ。真剣な顔してアコギ持って出てって、遅くに帰ってきたら。」
母はニコニコと笑っている。
こういう時、女って鋭いんだな…と思う。
「まあね。下手だったけど、なんか橋沼さんて人が、褒めてくれたよ。」
「へえ。響すごいね、やるじゃん」
響は橋沼さんとのやりとりをかいつまんで話した。
母はとても嬉しそうにご飯を食べながら聞いていた。
「それで…その人が叔父さんに会ったことがあるって」
響はわざと何でもないことのように話しながら生姜焼きを頬張った。
母が何も言わないので、ちらりと上目遣いに見ると、目を丸くして箸をポロリと落としていた。
「それで…?ヒロはどこにいるの?」
「その人も知らないって。だけど、東京で作曲の仕事してるってことは教えてくれた。居場所や仕事場は秘密にしてて、謎の多い人だって言ってた。」
母は、目を潤ませて聞いていた。叔父の話をするときはいつもこんな顔をする。
「ヒロ、ちゃんと生きてるんだ。ねえそれ、橋沼さんに付いて東京行ったら、ヒロに会えるかもしれないじゃない?
響、東京に行って来なよ、夏休み、お金出すからついでに見たいライブ見てきなよ。」
「えっ?東京って…待ってよ母さん、橋沼さんだって今日会ったばかりだよ」
「その人なら大丈夫よ。ヒロに会えたらすぐ教えて。ヒロに、待ってるって伝えて。」
ガタンと席を立った母は響の両手を握った。
「お願いね。待ってるから」
「あ、ああ、うん」
何を根拠に大丈夫なのか、母の勢いに思わずうなづいてしまった。
響は部屋に戻るとすぐ拓也の名刺を出して、電話をした。
「あ、橋沼さん、遅くにすいません。武内響です」
『おう、早速どうした。東京に来る気になったか?』
「いや、その、そうなんです。」
『ふぅん。行動早いな。いつ来る?俺は夏休みに合わせて帰るけど』
「僕も夏休み入ったら行きます。いろいろライブ見て見たいし…それに、武内廣治を探したくて。もしかしたら会えるかもしれないから」
『そっか、なら俺と一緒に行こう。いる間は俺んちに泊まっていいよ。
ただ武内さんに会えるとは限らないからな。それだけは忘れるなよ』
「わかりました。ありがとうございます。」
そういうことで、響は夏休みに東京へ旅立つことになった。
空想都市一番街
このサイトは管理人「すばる」の空想の世界です。 一次創作のBL、男女のお話、イラスト、漫画などを投稿しています。 どうぞゆっくりしていってくださいな。
0コメント