今年の大晦日はタクヤの家に、娘のすばると、親友の泪夫婦と、その息子のシュリで集まることになった。
みんなで新年を迎えてから帰路に着く予定。タクヤは朝からご馳走を作ったり部屋を飾り付けしたり。
タクヤは結構そういうことが好きなのだった。
やがてそれぞれ集まりだした。
「タクヤ、お招きありがとう。」
「お邪魔しますタクヤさん。お久しぶりね!」
泪とまなみの夫婦が1番のり。
続いて後ろからすばるとシュリもやってきた。
「あ、ちょうど泪さんたちと一緒だったね!パパただいま〜!」
「タクヤ、久しぶり」
各々がお土産を持って訪れた。
タクヤは優しげに迎える。
「よく来たね!寒いから、入ってあったまって。ご飯もできてるよ」
みんなでテーブルを囲んだ。このメンツで集まるのは本当に久しぶりだった。
シュリもすばるも大きくなって家を出たし、そうなるとなかなか揃うことも減るものだ。
こういう機会もいいものだ。
タクヤはみんなで過ごすことにしてよかったと思った。
最近の様子や、みんなに共通の好きな音楽の話などに花が咲いた。
日付が変わる頃には、ビールを片手にお祝い。みんなほろ酔いで楽しい気分で新年を迎えた。
そろそろお開きになりそうになり、すばるは席を立った。
トイレから戻る時、ふと、がらんとした自分の部屋に入った。
物が無くなったけど、ずっと暮らしていた部屋。
「懐かしいな…もうここを出て、一年経つんだね…ふぁああ、なんか、眠くなっちゃったなあ」
すばるはベッドに腰掛けると、少しだけ休むつもりで横になった。
「そろそろ帰りましょうか。タクヤさん、ありがとう。今年もよろしくね」
「ええ、よろしくお願いします」
まなみとタクヤが言葉を交わしていると、シュリが周りを見渡した。
「あれ、すばるまだ戻って来ない。ちょっと様子見てくる」
家の奥に向かった。
お腹でも壊したかと思ったのだけど。すばるの部屋の明かりがついていて覗き込むとベッドにすばるが横になっていた。
「なんだ、部屋で寝ちゃったのかよ。おーい、風邪ひくぞ。帰るよ…」
と言いかけて、シュリはハッとした。
このまま寝かせておいてあげれば、タクヤと過ごせるんだな。
他のやつ相手なら絶対そんなことしないけど、タクヤなら。
タクヤ相手に笑うすばるの嬉しそうな顔なら…
シュリは起こすのをやめてリビングに戻った。
「すばる部屋で寝ちゃったみたい。起こしたんだけど起きないよ。」
リビングで報告するとタクヤが目を丸くした。
「えっ、ほんと?結構飲んでたからなぁ…」
「寝かせといてあげたら。たまには実家でのんびりするのもいいんじゃない?」
泪が言ってタクヤの肩を叩いた。
すばるがタクヤに恋心抱いてること、タクヤがそれを手放させようと家から出してシェアハウスで暮らさせていること、
泪は全部知っていた。
でも、泪はタクヤが知らないことも知っていた。
「たまには一緒に過ごしてもバチは当たらないよ。」
とこっそりタクヤに耳打ちしたのだった。
「どーいう意味だよ…」
タクヤは首を傾げた。
「さ、じゃあ僕らは帰るから。すばるちゃんにもよろしく。じゃあねタクヤ、おやすみ」
泪とまなみ、シュリはそれぞれタクシーに乗って帰って行った。
タクヤはみんなを見送って、すばるの様子を見に部屋に行った。
「ふふ、よく寝ちゃってる。ヘアバンドもしたまんまだ。取らないと」
タクヤは結び目を解いてそっとすばるの頭を持ち上げると、すばるが「うーん」と言って寝返りを打った。
「おっと、…よかった起きなかった……」
すばるの耳が冷たくて、タクヤは手で包んだ。その寝顔は少し紅潮して、規則正しく呼吸している。
愛おしい
それが、心に湧いた自然な気持ちだった。
ずっと一緒にいて、育ててきた、というより一緒に成長してきたような気がする。
この子が愛おしくて当然だ。血が繋がってなくたって、娘だから。
そうに決まってる。
そうでなきゃいけない。
愛おしい、なんて…
次の朝。
美味しそうなお雑煮の香りで目覚めたすばるは、自分がいる場所が理解できなくてしばらくぼんやりしてから、
家の、部屋!!
と気づいて急いでリビングに向かった。
「パパ!!ごめん私昨日、寝ちゃった!!」
キッチンに立っていたタクヤはすばるの様子を見て笑った。
「アハハ!分かってるよ。飲んで寝落ちちゃったんだろ。メイクもしたまま、服もそのまま気づいたら爆睡してたよ」
それを聞いて真っ青になるすばる。
「いやああー!私メイクもそのまま?!パパ、お風呂入ってくるね!!お雑煮、ちょっと待ってて!!」
バタバタとバスルームに駆けていくすばる。タクヤは笑った。
「ふふ。待ってるよ。」
愛おしい、がなんであれ。
今年も一緒にお雑煮を食べれるのは幸せだ。
今はそれでいいんだ、とタクヤは思った。
今年も本当にありがとう。
素敵で安心で安らかな新年となりますよう。
全ての人の幸せを祈っています。
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