夏フェスと「cutz」①

最近流行りのミュージシャンがいる。
すばるもレナも、ナギもシュリもみんなが夢中。
それが覆面ミュージシャン「cutz(カッツ)」。

VRゴーグルのついたヘルメットを被り、あまりビジュアルを表に出さない不思議なシンガーソングライター。声からして男性だろうけど、限りなく性別を超えた感覚を覚える。

すばるとレナとシュリとナギの仲良し4人はそんな「cutz」が出るフェスに行く予定を立てていた。

タクヤもcutzが気になっていて行きたかったけど、その日はルイとのユニット「AZEMICHI」で地方でのライブのため断念したのだった。

「じゃあねタクヤさん。私も泊まりで帰りは明日だから。タクヤさんもお仕事頑張ってね」

すばるは楽しそうにニコニコしながら荷物の入ったリュックを背負った。

「うん。お土産買ってくるね。cutzの感想聞かせてね」

タクヤはネクタイを締めながら答える。

すばるはいつもと違うスーツ姿のタクヤにギュッと抱きつく。

「タクヤさん、かっこいい。大好き」

「ふふ、ありがと。俺も大好きだよ」

軽くキスを交わすともう一度ぎゅっと抱きしめ合って2人は離れる。

「じゃあね、いってきまーす」
「行ってらっしゃい」

元気よく出かけていくすばるをタクヤは見送って、朝のカフェラテを飲む。

スマホで朝のニュースをチェックしているとルイから着信があった。

『おはようタク。実は今日のライブなんだけどね、地方公演って嘘なんだ』

通話に出て早々にルイはそんなことを言う。タクヤは「は?」とカフェラテを吹きそうになりながら目を丸くする。

『本当はね、フェスに出るんだよ。すばるちゃんやシュリたちに内緒でサプライズで出たくてさ〜!タイムスケジュールにもスペシャルゲストとしか書いてないから、きっとびっくりするよ!』

ルイは人が驚くのが好きで時々ぶっ飛んだことを考えつくけど、これにはタクヤも空いた口が塞がらない。

「フェス?!何言ってんの??それに、すばるたちが見てくれるとは限らないじゃん、他のステージに行ってるかもよ?」

『それは問題ないさ。だって僕らが出るのは「cutz」の前だからね。その前にはすでにステージ前に来てスタンバイしてるはず。じゃそう言うことで、1時間後に迎えにいくから準備しておいてねタク』

ルイは楽しそうに言うと通話を切った。

タクヤは呆気に取られていた。あの「cutz」の前って、つまり大トリの前ってことだ。
タクヤはしばらくルイの言ったことを脳内で反芻していたが、ハッと我に帰って苦笑いするとフェスに出る準備を始めたのだった。

1時間後、ルイの運転する車がタクヤの家へ到着する。

「まったく、ルイのサプライズ癖にはいつも驚かせられるよ。AZEMICHIがフェスなんて大丈夫かな?俺たちの音楽、フェスって感じじゃないけど…それに、大トリのcutzの前なんて」

車が発車するとタクヤはルイにぼやく。

「心配いらないよ。僕たちの音楽も十分、音楽の刺激に飢えたフェス民たちを満足させられるさ。今回のライブではサポートメンバーも充実させたからね。リハの時きっとタクも驚くよ!」

いつのまにかサポートメンバーまで用意して、バンド形式でライブする気満々のルイ。面白いことを思いついたら行動が早い。

「あっそう…まったく、ルイはいつも俺の想像を超えてるな」

タクヤはエネルギー溢れる相方の楽しそうな顔を見て笑うとシートに体を預た。


一方すばるたちは。
「ちょっと!ギネスビールの生だって!すばる行こ!なかなか飲めないんだよ!」

「わ、レナちゃんもうお酒3杯目だよ?暑いしそんなペースでお酒ばっかり飲んだら体に良くないよ〜!」

レナはフェスの雰囲気ですっかり気持ちよく酔っ払っていた。

「はいはい、レナさん、一回お酒お休みだよ。ほら、そこでハーブティー買ってきたから一緒に飲もう。水分もちゃんと補給しなきゃね」

ナギがすかさずレナを木陰のテーブルに引っ張っていく。

「ええ〜!ギネスの生飲みたかったなぁ」

「それは後で一緒に飲もう。ほら、ハーブティーも美味しいよ。レナさんの好きなカシスフレーバー」

ナギがレナをなでなでして宥めながら、ハーブティーを渡す。

「…おいしい。後で絶対一緒にギネス飲もうね?」

ナギはうんうんとうなづきながら寄りかかってハーブティーを飲んでいるレナの肩を優しく抱いている。

「ふう、よかった。レナちゃんあんなペースで飲んでたら熱中症で倒れちゃうところだった。お酒好きで強いけど、気をつけないと暑いから危ないよね」

すばるは仲睦まじいレナとナギを残してシュリと近くの河原で涼んでいた。

「そうだよな。でもレナちゃんいつもクールなのに酔っ払うと色っぽくなっちゃうの猫みたいでかわいいなあ。ナギのやついい彼女見つけたよな〜」

シュリはその日一杯目のモヒートを片手に小石を川に投げた。

「うふふ、そうだね。2人が幸せそうで嬉しいな」

すばるは搾りたてスイカジュースを手にニコニコ微笑んでいる。

「すばるもタクヤっていういい男がいるしさ。俺もフェスで出会いとかないかな〜。すばるみたいなロングヘアの…」

酔いが回ってきたのかついうっかり口が滑ったシュリはハッとして口をつぐむ。

「ち、ちが、すばるみたいとかじゃなくて、すばるくらいの髪の長さの子が好みだなぁって意味!」

「ふぅん、私くらいの長さが好きなんだ〜」

シュリは焦ったけどすばるは何にも気づいていなかった。

「ま、いいや、もう一回タイムテーブル見ようぜ、すばるはこの後何見るの?」

河原で2人はスマホでタイムテーブルを見る。

「私はソウルフラワーユニオン行くよ!チンドンで踊ってくる」

「お、いいな。俺も行こ。そういえば今日のcutzの前のスペシャルゲストって誰だろうな?cutzのためにそこからステージ前にいないといけないけど、どんなやつが出るんだろ」

「ねー、そこ私も気になってたの。でも大トリの前だし、すごい人が出るんじゃないかな。楽しみだね!」

そうして2人はソウルフラワーユニオンを見に向かい、ナギとレナはしばらく木陰でラブラブに過ごしたのだった。

cutzまでまだ時間がある。4人はそれぞれ見たいバンドを見て時間を過ごした。

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