夏フェスと「cutz」②

だんだんと空が夕焼け色に染まってきた。

すばるたち4人はそれぞれ見たいアーティストを見た後、メインステージ横で待ち合わせていた。

「みんな集まったね。じゃ、モッシュピットでcutzまで過ごそうか。体力は大丈夫?」

ナギがみんなに確認する。

「うん大丈夫!!やっと見れるのすごい楽しみ〜!!」

というわけですばるたちはcutzの前のアーティストが始まる前に、ステージ目の前のモッシュピットにスタンバイした。

「ねえ、このスペシャルゲストって誰かしらね?トリの前だし時間的にすごい人が出るんだろうけど」

レナがナギの腕に腕を絡めながら尋ねる。

「うーん、そうだな、wacciとか?」

首を捻りながらナギが答える。

「俺はマカえんだと思うなぁ。」

シュリは今日4杯目のお酒のソルティドッグを片手に言う。

「もしかしてさ、タクヤさんたち出てきたらウケるよね!!」

すばるが無邪気に笑いながら言うと、みんなも笑った。

「タクヤたちは地方公演だろ。こんなフェスに出るなら俺たちに言わないわけないし。」

「うふふ、でも実はサプライズで出てきたら驚きよね」

レナが言ったと同時にステージ横のスクリーンにネクストアーティストの文字が映し出された。

「あ、そろそろ発表だね。」

4人は楽しそうにお喋りしながらスクリーンに注視している。

『Next artist is…』

場内放送が響き、観客たちは一瞬静まり返る。

『AZEMICHI!!』

うおーとか、えー!とか歓声が会場に響く。

すばるたちは目が点になったまましばらく見つめ合い、一呼吸置いてから

『ええええええええ????!!!!!!』

漫⭐︎画太郎先生の絵みたいになって叫んだのであった。


バスドラの重い音が響き渡る。

ギターとベースが袖から現れ歪んだ音を重ね合わせる。

「あれ、ドラマーは嵐くんじゃない?ていうか、ベースは悠斗じゃん!ギターは…セナくん?!」

レナが声を上げる。

「本当だ、サースティーズの片岡瀬名だ」

シュリもびっくりして呟く。

ドラムの嵐とベースの悠斗はバンド「バロッカ」のメンバーで、片岡瀬名はソロ活動もしてるサースティーズのギターボーカル。

ルイはサポートメンバーに今インディーズでアツいアーティストを起用したのだった。

AZEMICHIはポップスグループだ。だけどこのステージはロック色を強く押し出していくのを感じさせた。

しばしギター、ドラム、ベースのセッションのような演奏が続き、会場の熱量がガンガン上がって来たころ、ルイとタクヤが袖から現れた。

「イェーッ!!」

タクヤの雄叫びに呼応して会場から歓声が上がる。

その様子に始終笑みが止まらないルイはエレピでいつもより激し目なアレンジでイントロを奏でる。

歌い出したタクヤもいつもよりアクティブにステージを動き回っている。

「な、何でタクヤさんが…!!うわあああカッコいい…!!」

すばるは泣きそうになっている。

いつもの大人しめなAZEMICHIと違ってパワフルなステージ。

観客もノリに乗っているようだ。

「AZEMICHIってこんなにカッコよかったんだな!」

「もっと大人しいバンドかと思ってた!」

周りの観客が口々に言っているのが聞こえる。

「父さんにまたやられたな。みろよあのめちゃくちゃ嬉しそうな顔。俺らへのサプライズが成功して最高って顔してる」

ナギが苦笑いしながら呟く。

「ルイらしいよな。子供の頃から何回こんなサプライズされたかって!いつかもっとサプライズし返してやるからな!」

シュリも叫びながら楽しそうだ。

「AZEMICHIへようこそ!タクヤです!」

観客は歓声を返す。

「ルイでーす。みんな楽しそうだね。びっくりしたでしょ?僕たちが来るって思ってなかったでしょ?」

「みんなきっとマカえんとかwacciが来ると思ってたよきっと。髭男とか。」

ルイとタクヤの会話に会場は笑い声が漏れる。

そのあとタクヤがサポートメンバーを紹介すると、音楽に敏感な観客たちはどよめきをあげていた。

「みんなの楽しそうな顔が最高だね。最高のサポートメンバーと奏でる今日限りのAZEMICHIを味わってね。じゃあ、タク」

2人は目を合わせると、ワンブレスで曲が始まる。

この息ぴったり感がAZEMICHIの醍醐味だ。
ロックアレンジに、原曲に近いスローなバラードなど。
そんなこんなで約45分、AZEMICHIはステージを披露したのだった。

すばるたち4人はそれぞれ感動したり泣いたり、すっかりルイにサプライズされてしまったのだった。

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