その日は何度もした。
何度しても、伊織はずっと優しかったし(激しかったけど)、常にマッサージするかのようにコウタの体に丁寧に愛撫してくれた。
体が持たない時はやめてくれたし、ずっと大事にされ続けた。
やがて、疲れて2人で眠ろうとした時、コウタはふと思った。
明日になれば、もう終わりなのか。
仕事をしていて、朝が来ないでほしいなんて思ったことがなかった。
寂しい、なんて思ったことがなかった。
「どうした、そんな顔をして。」
伊織が大事そうにコウタの頬を撫でる。
「…明日にならないでほしいなって思って」
泣きそうな気持ちをへへ、と笑って誤魔化すコウタに、伊織は優しくキスをした。
「俺もだよ。…また会える。その日まで、また日々を生きよう。」
コウタは腕の中でうんとうなづく。
「また会えるんですよね。俺、待ってますね。毎日頑張って、また会える日を楽しみにしてます」
コウタは抱き寄せられて、撫でられているうちに眠りについた。
次の朝。
昨日のお礼にとコウタが朝ごはんを作った。フレンチトーストとウインナーとスクランブルエッグとサラダ。
料理が下手なコウタもこれくらいなら出来るのだった。
伊織はコーヒーを淹れてくれた。
「美味そうだな。いただきます」
コウタはドキドキしながら伊織の反応を伺う。
「美味い。フレンチトーストも中まで染みてるし焼き加減もちょうどいい。お前、料理苦手と言うけど、こういう塩梅はさすが母親を見て身についているのだな。素晴らしい」
めちゃくちゃ褒められてコウタは嬉しくてニコニコしてしまう。
「よかったです!すごく褒められちゃった。へへ、嬉しい」
2人で平和な優しい朝の時間を過ごす。こんな平和もあるのかと、コウタは温かい気持ちになる。
裏腹に、終わりの時間も近づいていた。
食事が終わって、片付けも終わって、身支度を済ます。
「さて、行こうか」
「はい」
伊織はコウタの手を取ってエレベーターのボタンを押す。
エレベーターが来るまでの間、2人はきつく抱き合ってキスをする
しばらくそうしていると、やがてエレベーターがやってきた。
中に乗り込む時、コウタは後ろを振り返った。大きなガラス窓から明るい外の光と、景色が見えた。
「もしお前が迷ったら、あの明かりを目指していけ」
昨日伊織に言われた言葉を思い出す。あの場所、メインシティー。
そしてエレベーターに乗って、ボタンを押した。
「名残惜しいが、ここで解散だ。俺はこのまま仕事があってな。お前の事務所に連絡はしてあるから、迎えがもうすぐ来るはずだ」
リゾートマンションのエントランスを出ると伊織が言った。
危ないから、と迎えの車が来るまで伊織は一緒に待ってくれた。
まもなく、送迎の車が到着する。
「じゃあな、コウタ。元気で」
伊織はコウタのおでこにキスをして、握手をした。
コウタもその手を握り返す。
「はい。とても幸せな時間でした。ありがとうございます。また、お会いするのを楽しみにしてますね」
寂しかったけど、コウタはできる限り優しく、明るく微笑む。
名残惜しく手を離すとコウタは車に乗り込んだ。
窓を開けて、伊織を見つめる。
「お元気で!」
伊織はああ、とうなづく。
車が走り出すと同時に、伊織も背を向けて歩き出した。
コウタはその後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
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