闇で見守る者⑧ 優しい朝と別れ

その日は何度もした。

何度しても、伊織はずっと優しかったし(激しかったけど)、常にマッサージするかのようにコウタの体に丁寧に愛撫してくれた。

体が持たない時はやめてくれたし、ずっと大事にされ続けた。

やがて、疲れて2人で眠ろうとした時、コウタはふと思った。

明日になれば、もう終わりなのか。

仕事をしていて、朝が来ないでほしいなんて思ったことがなかった。
寂しい、なんて思ったことがなかった。

「どうした、そんな顔をして。」

伊織が大事そうにコウタの頬を撫でる。

「…明日にならないでほしいなって思って」

泣きそうな気持ちをへへ、と笑って誤魔化すコウタに、伊織は優しくキスをした。

「俺もだよ。…また会える。その日まで、また日々を生きよう。」

コウタは腕の中でうんとうなづく。

「また会えるんですよね。俺、待ってますね。毎日頑張って、また会える日を楽しみにしてます」

コウタは抱き寄せられて、撫でられているうちに眠りについた。


次の朝。
昨日のお礼にとコウタが朝ごはんを作った。フレンチトーストとウインナーとスクランブルエッグとサラダ。

料理が下手なコウタもこれくらいなら出来るのだった。

伊織はコーヒーを淹れてくれた。

「美味そうだな。いただきます」

コウタはドキドキしながら伊織の反応を伺う。

「美味い。フレンチトーストも中まで染みてるし焼き加減もちょうどいい。お前、料理苦手と言うけど、こういう塩梅はさすが母親を見て身についているのだな。素晴らしい」

めちゃくちゃ褒められてコウタは嬉しくてニコニコしてしまう。

「よかったです!すごく褒められちゃった。へへ、嬉しい」

2人で平和な優しい朝の時間を過ごす。こんな平和もあるのかと、コウタは温かい気持ちになる。

裏腹に、終わりの時間も近づいていた。

食事が終わって、片付けも終わって、身支度を済ます。

「さて、行こうか」

「はい」

伊織はコウタの手を取ってエレベーターのボタンを押す。

エレベーターが来るまでの間、2人はきつく抱き合ってキスをする

しばらくそうしていると、やがてエレベーターがやってきた。

中に乗り込む時、コウタは後ろを振り返った。大きなガラス窓から明るい外の光と、景色が見えた。

「もしお前が迷ったら、あの明かりを目指していけ」

昨日伊織に言われた言葉を思い出す。あの場所、メインシティー。

そしてエレベーターに乗って、ボタンを押した。



「名残惜しいが、ここで解散だ。俺はこのまま仕事があってな。お前の事務所に連絡はしてあるから、迎えがもうすぐ来るはずだ」

リゾートマンションのエントランスを出ると伊織が言った。

危ないから、と迎えの車が来るまで伊織は一緒に待ってくれた。

まもなく、送迎の車が到着する。

「じゃあな、コウタ。元気で」

伊織はコウタのおでこにキスをして、握手をした。

コウタもその手を握り返す。

「はい。とても幸せな時間でした。ありがとうございます。また、お会いするのを楽しみにしてますね」

寂しかったけど、コウタはできる限り優しく、明るく微笑む。

名残惜しく手を離すとコウタは車に乗り込んだ。

窓を開けて、伊織を見つめる。

「お元気で!」

伊織はああ、とうなづく。
車が走り出すと同時に、伊織も背を向けて歩き出した。

コウタはその後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。



0コメント

  • 1000 / 1000

空想都市一番街

このサイトは管理人「すばる」の空想の世界です。 一次創作のBL、男女のお話、イラスト、漫画などを投稿しています。 どうぞゆっくりしていってくださいな。